「一帯一路」―中国国家戦略を日系企業はどう活かすか

株式会社マイツ
代表取締役 池田 博義氏講演より

1993年に中国に渡り、現地で26年間業務を遂行しているマイツCEOの池田氏は「10月23日の安倍総理の訪中で、より日中関係がよくなるのではないか」と期待感を示しました。一帯一路(OBOR:One Belt, One Road)は中国にとって大きな計画であるとともに、習近平中国国家主席が唱える「中国の夢」の実現に向けた大構想です。

中華人民共和国建国以来、第3局面の踊り場を迎えている中国の夢とは
どのようなものなのでしょうか。

1820年代、世界における中国の国内総生産(GDP)は33%と、インドと併せると世界のGDPの半分を占めていました。しかし、1950年にはGDPは4%まで激減し、アメリカとトップの座が入れ替わります。1998年には中国改革開放政策により11%まで増加、2017年のGDPはアメリカに次いで第2位までに浮上しました。

習近平主席が唱える中国の夢とは、 失われた200年を取り戻し、中華民族の偉大なる復興を遂げること、そのロードマップとして、 共産党創立100周年に当たる2021年に小康社会(ややゆとりある社会)を達成することです。そして、 建国100周年となる2049年までに社会主義現代化国家の構築を目指しています。このことは中国が世界の経済、軍事、環境、政治、消費、教育、科学技術でそれぞれの強国になることを意味しています。中国の強みには以下が挙げられ、これらが互いに関連し、さらなる中国の強みとなっています。
・潤沢な外貨準備高
・14億の人口
・世界最大の市場
・公共インフラ整備の充実

強みを活かし、公共投資、金融、雇用、それぞれの拡大を狙う上で、一帯一路戦略という人類運命共同体構想が策定されました。

それでは一帯一路経済構想とは、どのようなものなのでしょうか。

「一帯」とは中国西部から中央アジアを経由し、ヨーロッパへと続く、シルクロード経済ベルトを、「一路」とは中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸へと続く。21世紀海上シルクロード経済ベルトを指しています。この陸路と海路を通る各都市の交通網の整備(高速道路、鉄道、港湾の整備、物流システムの確立)、パイプライン敷設、生産工場の開設、環境整備の設置などで経済発展に寄与していこうというのが一帯一路戦略です。
一帯一路戦略は2013年に国家戦略に引き上げられ、2015年にはシルクロードファンドの設立、2016年には第13次5か年計画に採択されました。2017年には第1回「一帯一路フォーラム」が北京で開催され、同年共産党規定にも盛り込まれています。

一帯一路戦略と同時にできたのがAIIB(アジアインフラ投資銀行)です。各国がインフラ整備を行い、工場やパイプラインなどを作るためには資金が必要となるため、AIIB が設立されました。
span style=”background: linear-gradient(transparent 0%, #ff9999);”>一帯一路戦略がもたらす経済効果はインフラ投資にとどまらず、金融、製造、電子商取引、貿易、テクノロジーなどへの投資に波及することにより、一帯一路地域が活性化・高度化し、大きな経済効果につながっていくことが予想されます。

しかし、一帯一路戦略には良いことばかりではなく、負の面も存在します。例えば、トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、中国を通る天然ガスパイプラインの敷設では、経済制裁の関係でロシア、イラン向けの出荷が止まり返済できない可能性が浮上しています。タジキスタンでは、発電事業融資の見返りに金鉱山の開発権の譲渡に関する問題、スリランカではハンバントタ港の運営権の譲渡に関する問題がそれぞれ起きています。ほかにも、インドネシアの高速鉄道計画が大幅に遅れるなどしています。「これらはインフラ開発とその効果に関するフィジビリティ・スタディ(Feasibility Study、実行可能性調査) を十分に考慮せずに行った結果」だと池田氏は分析します。

最後に一帯一路における日本企業の戦略については「日本がすぐに AIIB に加入することはないだろう」(池田氏)、日本政府と企業とで後期経済地域国の国家プロジェクトになる事業を提案し、一帯一路戦略については、「日本の知恵、技術、企画、医療、経験を活かし、中国の資金、マーケット、14億という人口と融合することで世界の経済成長に寄与できる」と明るい見通しを示しました。