建設業界の働き方改革「女性活躍推進の取り組み」

採用、定着、活躍をサポートする仕組みとは

清水建設株式会社 ダイバーシティ推進室 室長
西岡 真帆 氏

7月19日の東5ホールには清水建設のダイバーシティ推進室長である西岡真帆氏が登壇。同社は、 ダイバーシティを推進することにより、女性技術者や女性管理職など、 女性の活躍の実現に向けて取り組んでいます。技術者としての経験もある西岡氏に、実際の取り組みや成果などについて紹介いただきました。

世の中のニーズが変化してくると、企業経営の基盤となる人材や企業体質などが従来のままでは支障をきたす懸念があります。これまで、人材と言えば、日本人、男性が中心で、さらには、24時間いつでも働けます、とか、来月からの転勤に対応できます、など、どこでも働ける人たちで構成されていました。
それを変えていかないと、企業としての持続的発展が難しくなるのではないかと考えたことが、当社がダイバーシティ推進を経営の課題として打ち出したきっかけです。ダイバーシティ推進室が中心になって行っている女性活躍推進の取り組みを大きく分けると、設備や人事制度を変えるなどのハード面の整備と、研修の充実や従業員の意識改革といったソフト面に分かれます。それらを併用して色々な取り組みを行ってきました。

女性に良いことは男性にも良いということ

ハード面から見ると、当社はいち早く女性用ユニフォームの製作に取り組んだり、ヘルメットを女性用にフィットするような形にしてみたり、女性支援の取り組みを行ってきました。やってみて気付いたことがあります。それは、女性にとって良いことは、実は男性にとっても良いということ。

安全帯の改良に取り組んだときのことです。金具部分をスチールからアルミに変えて軽量化を図ったり、腰ベルトをフィットしやすい形にしたりなど、安全上の工夫も色々と施しました。すると、女性用として開発したこの安全帯が、実は男性にも評判が良かったのです。多分男性陣は今まで我慢して仕事をしてきたのだと思います。女性の意見は、男性が求めていたものでもあったのです。
また、人事制度も子の看護休暇を有給とし半日単位に変更したところ、女性だけではなく男性も活用するようになりました。少し工夫したり、少し使い易くしたり、少し費用を上積みするだけで、使いやすい制度になるということが分かりました。

2年前にフレックス制度を条件付きで導入してみたところ、導入した年の4月の登録者の内訳は、女性よりも男性の方が多かったという事例もあります。これは、朝、男性社員がお子さんを保育園に預けてから出社するためで、奥様と育児などを分担して働いている社員が、当社でもどんどん増えてきているという事実に私も驚きました。
この4月から在宅勤務もテスト導入しています。私も5月に登録をしました。最初は「室長が在宅するなんて仕事が回らないだろう」といった声もありましたが、実際やってみると、部下からは「室長が会社にいても打合せなどで席を外すことが多かったが、在宅勤務ではいつでも相談ができるので、仕事の効率が高まりました」と言われました。初めから無理だと言わずに、トライしていく事が大切なのかなと感じています。

ソフト面からの取り組みとしては、2009年から毎年開催している、入社2年目の女性社員を対象とした女性社員フォローアップ研修という1泊2日のプログラムがあります。この研修には必ず女性の先輩社員がトレーナーという形で参加します。同期との横のネットワークだけではなく、先輩との縦のネットワークも作ってほしいという狙いがあります。最近では、女性だけではなく、男性社員に対しても、こういったフォローが必要なのではという議論も出てきています。
また、2013年から実施している女性活躍推進フォーラムという大きなイベントがあります。ダイバーシティ推進室は2009年に発足し、女性活躍推進に取り組んでいましたが、当時は会社全体としてどこまで本気なのかがわかりにくい状況でした。そうした中で、2013年に当時の社長が国内外の女性社員を集めたフォーラムの場で、「チャンスは男性と同じように差しあげる。是非チャレンジしてください。さらに、将来的には、女性役員も出てほしい」とのメッセージを発しました。参加していた女性社員のモチベーションや温度があがったのを私は実感しました。こうして始まったフォーラムですが、プログラムの最後には、社員食堂で役員たちがホスト役になって女性社員をおもてなしするという普段の立場とは異なる演出も恒例になっています。

このような取り組みを進めてきた成果として、女性技術者たちの活躍の場がどんどん広がってきています。メディアから取材を受けたり、山岳トンネルの作業所でも女性の現場監督が配置されるようになっています。会社としては前例がなかった女性技術者の海外勤務も実現しました。

『イクボス』を育てることが女性活躍のカギ

女性活躍推進には「採用」「定着」「活躍」の3ステップがあります。採用と定着に関しては、人事部で色々と対応できます。ただ、活躍してもらうためには、実際一緒に働いている同僚の皆さんや、上司の理解と協力がなければ実現できません。

そこで始めたのが、部下が上司を表彰者として推薦する仕組みの『イクボスアワード』です。当初、『イクボス』の定義を、女性の育児支援や育成としましたが、女性部下がいないから関係ないとか、女性活躍推進やダイバーシティ推進は一部の限られた人だけのものという認識が広がってしまいました。そこで、2015年からは、『イクボス』というのは、女性・男性を問わず、部下の私生活だけではなくキャリアも応援する。そして、自分自身もワークライフバランスを楽しむ、さらには生産性向上や業務効率化による働き方改革を実現しているボスと再定義しました。つまり、全社員が参加できる表彰制度にしたわけです。すると、部下たちの感謝の気持ちがつまった推薦文書が送られてくるようになりました。中には、現場で施工管理をしている男性部下に育児休暇を3カ月間与えた事例もありました。こうした事例に触れ、「やればできる」と多くの社員が奮起してくれることを期待しています。

業界全体そして個人が何かを変えることが大切

業界全体としても、女性の技術者を増やす取り組みをしています。建設業は他産業に比べ、高齢化が進んでいる業界です。ですから、男性だけではなく、女性の力も借りなければいけない、と業界全体で取り組んでいます。また、2014年から建設業界で働く女性を『けんせつ小町』と称し、ロゴを作るなど、業界内外への周知活動を展開しています。さらには、国交省をはじめとした各団体が行動計画を策定し、現場での女性用トイレの整備促進といった、ハード面の対策が進められています。

しかし、ソフト面の取り組みはまだ不十分だと感じています。ソフト面が変わらないとハード面をいくら整備しても難しいものです。女性活躍推進も働き方改革も、まずは一人ひとりが自分事として捉え、何かを変えてみようと思うことが大切だと感じています。(完)あぶ