【ダイバーシティ ケーススタディ】vol.4 聴覚障碍のあるお客様

蕎麦打ち体験

川端さんは、引退後に習った蕎麦打ちの技術を使い、毎週末に、「道の駅」で、特産の蕎麦粉を使った「蕎麦打ち体験」を指導しています。観光客は、自分で打った蕎麦を、持ち帰ってもいいし、+500円で茹でて、その場で山菜天ぷらと食べることもできます。

ある朝、3人の女性のお客さまがいらっしゃって、その中の1人がこう言いました。

女性 「蕎麦打ちに参加するのは2人だけど、食事は3名でしたいんです。私が2人分の料金を支払って、2人分の粉で作っていいですか?」
川端 「全員で参加しなさい、楽しいから。どうして1人は、参加しないんだ?」
女性 「あの、1人は耳が聞こえないから・・・・・」
川端 「聞こえなくても、手は動くだろう。全員で参加しなさい」

それを聞いていたもう1人が、一番若い女性に手話で何か伝えました。聞こえないのは、この一番若い女性のようです。しばらく何か手話でやりとりをしていましたが、
「やっぱり、やめます」と言って、3人は帰っていきました。

考えてみよう!

Q川端さんがどのような対応をしたら、この3人はもっとも楽しめたと思いますか? 一番良いと思う回答を選んでみましょう。
  1. 聞こえない人のことはわからないので、とにかくお客さまに言われたとおり、1人に2人分を打ってもらい、残りの1人は見学をさせればよかった。
  2. 体験してみなければ、何事もわからない。聞こえる聞こえないにかかわらず、ものづくりの楽しさを知っていただけるよう、もっと強く全員参加を伝えるべきだった。
  3. 聞こえないと何ができないのかなどを聞き、どんなサポートを必要とするべきなのかを考え、柔軟な態度でよりよい方法を見つけるべきだった。

C思い込みを外すべきです。聞こえない人=参加しない、と思い込んでいると、「手があればできる」と考えがちです。誰がどうして参加できないのか、お客さまに聞くべきでした。
Aは、お客さまの誰かが我慢したり、しかたがない、と思う方法かもしれません。方法としては間違ってはいませんが、ベストな方法とは限りません。

ホントのきもち・・・

一美さん、不二子さん、三枝さんの3人は、仲の良い友達。3人とも蕎麦が大好きです。旅行先の道の駅で蕎麦打ち体験の看板を見て、「参加しよう!」ということになりました。一美さんが(手話で)言いました。

一 美:『先生が話す蕎麦の打ち方の説明を、不二子さんか私が、三枝さんに通訳する必要があるでしょ? 私、器用じゃないから、通訳にまわるわ』
三 枝:『ありがとう。でも、そうしたら、一美さんがお蕎麦、食べられないよね?』
不二子:『そうだ! 私が一美さんの分も打つわ!』

そこで、蕎麦打ち体験の先生に聞いてみると、「全員参加」としつこく言われました。

一 美:『私も参加しちゃうと、先生の横に立てないということよね? きっと横並びよね・・・・。手も粉だらけになるだろうし・・・・・・』
三 枝:『私も、自分の手元と、先生と、横の一美さんの3カ所は、同時に見られないわ』
不二子:『・・・・蕎麦打ちは諦めましょう。さっきあった、角のおそば屋さんで食べようよ』


解説

最もよい方法は、選択肢にはありませんでしたが、川端さん自身が手話をしながら説明することです。しかし、それはできません。

  • 通訳者がいれば、川端さんの横に立ってもらう。そうすれば、川端さんの口を見ながら、手話通訳も見ることができる。
  • 説明をしてしまってから実習させる。説明しながら実習させると、聴覚障がい者は手元の蕎麦を見ている間、情報が入らなくなる。(聴者は耳で聞きながら、手元の蕎麦を見て打てる)
  • 説明内容を、あらかじめ紙に書いて配付したり、壁に貼ったりしておく。

このようないろいろな方法が考えられるといいですね。こうした体験を大切にし、次に備えましょう。次の聴覚障がいのお客さまが来たときに、笑顔でお迎えできます。

聞こえなかったり、見えなかったり、といった状況を想像するのは難しいものです。例えば、蕎麦打ち。「ここで水を入れて」など、参加者は、手を動かしながら、耳で説明を聞きます。そのとき目は手元を見ていることでしょう。
聞こえない人にとっての情報収集は「目」だけです。三枝さんは蕎麦を打ちながら、どこを見ると思いますか?せめて先生と通訳者が近くに立っていれば、手元と2カ所を見れば済みます。ただし、目を手元に落としたとたんに情報は途切れます。同時に行うのは、難しいでしょう。
また、川端さんは、聞こえない人=参加しない人、と思い込みました。いいえ、参加しないつもりだったのは、通訳を担当する友達です。聴覚障がい者の不便さ、特性、求める配慮など、多くのケースに触れることで、いろいろな対応が考えられるようになるでしょう。