PMIに対する誤解・実施上の困難さと、克服のための留意点

PMI(Post Merger Integration:ポスト・マージャー・インテグレーション)とは、企業の合併・買収(以下M&A)による企業や事業の取得取引の成立後に行われる、統合のプロセスを指します。前回はPMIが注目される理由について、その背景と重要性の観点から説明しました。今回はPMIに対する誤解や実施の難しさと、それを乗り越え回避するため、実施の際に留意していただきたい点などについて紹介します。

PMIに対する誤解と実施の難しさ

新聞報道などではどうしても派手なM&Aを巡る企業間の交渉過程等に関心が向けられやすく、また「対象企業とのM&A取引成立後のプロセス」との意味から”post”と名付けられている事もあって、PMIはM&A全体の中で副次的なプロセスと誤解されやすい面があります。しかしM&Aを仕掛けた企業の狙いという視点から言えば、むしろPMIこそM&Aの本番と言っても過言ではありません。対象となる企業や事業の選定やデュー・ディリジェンスといった初期段階からM&Aの全プロセスを通じ、PMIの視点を持って実行することが求められるといえるでしょう。

実際、M&Aのプロセスを6つに分け、各々の取組について自己評価を問うたところ、PMIが上手くできたという評価が最も低く、5番目に低かった「企業価値評価」の18%に対し、11%だったという調査結果があります。今日の企業・事業変革を図る上で重要性を増しているM&A、さらにその成否のカギとなるPMIについて普段から研究・準備を行い、いざというときに遅れを取らない様にする必要があると言えるでしょう。
※M&Aプロセスに関する自己評価について:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社「日本企業の海外 M&A に関する意識・実態調査結果」(2018 年 5 月 29 日発表)による。

PMIの進め方とその際の留意点

企業・事業の統合は、大きく3つのレイヤー、「経営統合(企業理念や戦略、マネジメントに関するフレームワークの統合)」「業務統合 (業務プロセスやインフラ、人材や組織、事業拠点等の統合)」「意識統合(企業の風土や文化の統合)」で構成されますので、PMIもこれに沿って行われることとなります。

企業・事業の統合に当たっては広範な範囲の統合を、限られた時間の中で行っていかなければなりません。そのためPMIを成句させるには、トップダウン型の基本方針の提示、統合準備事務局を中心とした統合プロセス全体の検討体制の整備、マスタープランの作成とその機動的な運用などによって、関係部署を巻き込んだゴールセッティングと緻密なプロセスマネジメントを行うことが必要となります。

その一方で、「統合」の名の下に、統合される側の経営・業務・意識を統合する側に一方的に寄せて統合する様な態度は、厳に慎まなければなりません。それはM&Aを行ってまで取り込もうとする「新しい血」の価値を台無しにしかねないからです。むしろPMIの過程の中で、それらを積極的に取り込んで行こうとする姿勢こそ、M&Aを行う目的である全社的な経営革新の達成にとってはもちろんの事、互いの信頼の醸成を通じ結果としてスムーズな統合を図ることにも繋がるからです。