【東レ】PETフィルムの高付加価値化と生産基盤強化

Penfibre Sdn. Berhad Film Factory (東レ・マレーシア)
フィルム部門
取締役(生産・技術担当)
河田 輝久 氏

東レは1926年1月に設立され、資本金1,478億円、従業員数は連結ベースで約45,000名、うち約60%が海外で働いています。マレーシアには「東レグループマレーシア」という統括会社と当社を含めた製造会社があります。
グループのフィルム事業は、日本、米国、韓国、中国、フランス、マレーシアの世界6カ国に製造会社が立地し、他に商社、研究所を配置しています。フィルムの海外展開は、1985年にアメリカへ進出以来、フランス、マレーシア、韓国、中国と順次拡大。グループのPETフィルムの生産能力は世界シェアで業界ナンバー1を誇っています。
当社は東レ100%の子会社で、1973年にポリエステル短繊維の拠点としてスタート、1997年にはフィルム部門を設立。また、2017年にフィルム部門は20周年を迎えました。

当社には繊維とフィルムの2部門があり、複数部署で現地従業員がトップを務めています。従業員の人種比率は、マレー系が71%、中華系が16%、インド系が7%、日本人は3%であり、共通言語は英語ですが、同じ人種間の場合はそれぞれの母国語を使用し、会議で白熱すると一度に複数言語が飛び交うような職場です。
売上高は、アジア通貨危機、リーマンショック、大きな為替変動、新興国の台頭によるPETフィルムの需給バランスの崩れなどで落ち込む時期もありましたが、2015年以降は堅調に推移しています。

生産基盤強化の礎はスタッフの意識改革から

当社は汎用フィルムの供給工場の位置付けで1997年にスタートしました。しかし、世界的なPETフィルムの需給バランスが崩れ、安価品増加によりアジア向け汎用品は顕著に価格が下落し、当社の日本向け汎用市場への販売量も低下しました。その結果、汎用品のみでの成長は不可能となり、より高度な生産技術を必要とする付加価値製品への転換が不可欠でした。これは日本の工場並みの生産管理や品質管理の導入、その技術や設備の導入を意味します。

これまで20年近く、汎用品量産を継続してきた工場の生産技術や生産管理をレベルアップするために、幹部社員を含めた従業員全体の意識面や管理方法、技術・設備面の変革に取り組み、速やかに結果を出す必要性に迫られておりました。

一方で、そのような環境の中、フィルム部門では労働災害が増加しつつあり、この原因は、規律やモラルの低下、基本ルールの違反、教育不足によるものでした。
このように生産活動の基盤として最も重要な規律や、基本ルール遵守にゆがみや脆弱性が見られたことから、工場の変革に当たり、製造現場の基盤である安全面から、規律やルール遵守、5Sを強固にすることが、品質や生産性の改善につながると考え、人とマネジメントにフォーカスした生産基盤強化活動を通じた意識改革による立て直しに着手しました。

工場長に優秀な現地従業員を抜擢し、主体的な現場管理へ

活動を推進するにあたり、東レ本体工場と当社を、3つの視点、全社指示の実行状況、安全の基本遵守やボトムアップ活動の実施状況から比較しました。その結果、基本ルールの浸透不足や現場規律の不十分を確認し、徹底度、自発性、双方向のコミュニケーションを認識し、3点の立て直しに取り組みました。

(1)安全活動を通じた意識改革
①組織改編
3工場全ての工場長に優秀な現地従業員を抜擢しました。現地従業員による3工場体制にすることで、指示系統が明確かつシンプルになり、日本人出向者からの指示待ちではなく、現地従業員主体で現場管理が進みやすくなりました。

②東レ本体工場(マザー工場)との交流強化
マザー工場からの安全活動を展開はしていましたが、形骸化していました。そこで活動の本質を理解して貰うために主任層などの現場キーマンをマザー工場に派遣しました。例えば、安全書き込み掲示板(Writable Board)は、現場で実際に危険と考える指摘や意見を現場オペレーターが記載し、危険を漏らさず抽出する活動ですが、実習前は記載された指摘に対して、管理・監督者が反応しないため形骸化していました。しかし、実習にて、管理・監督者がすぐに対処や指示を記載することで、現場の不安全状態、隠れた危険の抽出に役立つことを身を持って学び、現在は現場の指摘や意見に迅速に対応し、現場の安全化に役立てるようになりました。

③規律向上活動
部課長層の主体性を向上させるため、部署横断的に小グループを形成し、現地従業員管理職層が活動を推進、責任感の醸成に取り組みました。

(2)生産基盤強化
また、東レ本社とも連携し、3つの活動を行っています。
①労働災害、品質クレーム、工程トラブルの3つをゼロとする。
②収益極大化を目的に、現場情報の見える化により、PDCAサイクルを素早くかつ着実に回す。
③設備故障をゼロ化し、生産基盤強化を図る。

当工場の体制は社長以下、製造、技術、工務で構成され、実務は現地従業員が主体的に推進し、点検と保全を徹底しながら、先端的な工程監視ツールを導入して見える化を推進し、予兆管理の充実を図っています。
また、当社独自の活動として、リアルタイムの生産状況を表示、生産管理のデータベース化を行い、迅速にPDCAサイクルを回す生産管理システムを導入しています。工程データや収率生産量、設備の稼働状態、設備不良の発生状況がリアルタイムで把握できます。

人を育て、ASEANで事業拡大へ

人材育成については、統括会社である東レグループマレーシアが全体事務局となり、現地従業員の研修を企画運営し、新入社員から中堅幹部、各階層に応じて必要な教育をOJTとOFF-JTで進めています。現地従業員は各階層がマレーシアで研修を受けますが、幹部候補者は日本のプログラムも受講できます。確実な成果を得ているため、今後も東レ本体と連携し、従業員のスキルとモチベーションの向上を積極的に推進していく計画です。

安全活動により労働災害は低減し、2018年はゼロを継続しています。東レグループは国内および世界全地域の海外関係会社参加の下、年1回安全大会を開催しています。当社は改善の成果が認められ、2017年は事例紹介のプレゼンを行いました。また、昨今の厳しい事業環境下、3期連続で増収増益であり、2018年度も高い目標を掲げて取り組んでいます。

今後の方向性は、ASEAN地域での事業拡大と東レグローバルオペレーションに貢献することです。そのためには、品質やコスト競争力を高めることが肝要です。また、事業拡大に向けた課題である「人材育成」「能力拡大の推進」「体質強化」「CSRと環境保護への対応」を進めています。これらの取り組みを通じて、当社の発展に努めていきたいと考えております。(終)