【オークマ】DS2部品工場における新世代のスマートファクトリーの構築

オークマ
取締役副社長 家城 淳 氏

当社は1898年に創業し、2018年1月に120周年を迎えました。国内には半導体製造装置、建設機械、ロボットなど世界で競争力の高い産業がありますが、日本は工作機械においても世界を先導する高い競争力を有しています。当社はこの産業領域を通じて、世界の製造業の発展に貢献したいと考えています。
当社は、工作機械の開発だけでなく、1963年にNC(数値制御)装置を自社開発し、日々進化させ、工作機械の高速・高精度・高機能化を進めてきました。当社の強みはトータルレスポンシビリティ(総合一貫責任)であり、工作機械を幅広いラインナップで揃え、多種多様な産業に先進的な機械、加工手段、ITを融合したトータルサービスを提供しています。当社が提供する旋盤、マシニングセンタ、5軸・複合加工機、研削盤等の工作機械の機種数は多岐にのぼり超多品種少量生産の典型です。こうした自社工場において、生産性革新を目指すことは即ちマスカスタマイゼ―ションの追求にほかなりません。

世界的に次期の産業革命を目指す動きが活発化しており、Industrie 4.0、Industrial Internetなど新たな価値創造が産業界のテーマとなっています。また、世界各国で労働人口の減少が課題となっています。特に日本の労働人口の分布から見た経済成長の機会は1970~90年代がピークであり、現在は労働人口の減少が社会問題化しています。日本においては、中長期的な生産性の向上策、国際競争力の強化が喫緊の課題となっています。

スマートファクトリーの構築 新工場DS1の稼働開始から新たな課題発見

当社には本社工場(愛知県大口町)、可児工場(岐阜県可児市)、江南工場(愛知県江南市)の3工場があります。リーマンショックにおいては、日本工作機械工業会の受注高は、2007年の1兆5,900億円から2009年には4,118億円まで落ち込みました。その後、円高が進む中においても、熟練技術者、優れたサプライヤーが集積する日本が高付加価値マシンの生産の最適地と考え、「日本で作って世界で勝つ」を基本とした戦略を遂行しました。
日本において生産効率を徹底的に高めてグローバル競争力を強化するため、本社工場でスマートファクトリー構築を目指した取り組みが始まりました。

まず、第1段として、2013年に大型旋盤、複合加工機の部品加工から組み立てまで一貫して行う新工場「DS1(Dream Site 1)」を竣工。昭和に創設した従来型の部品加工工場から、自社製の門形マシニングセンタを使ったFMS(Flexible Manufacturing System)、ロボットを活用した自動化・無人化等により、24時間・週7日間稼働の「自動化と熟練の技が織りなす未来工場」へと変わりました。
DS1では見える化システムにより、日々変化する生産状況に対応し、現場の知恵を活かす仕組みづくりを行いました。また、現場の課題を吸い出すためコミュニケーション掲示板を運用し、解決策を検討するための製造本部主催の拡大部課長会を立ち上げました。この取り組みの中で新たな課題を抽出し、次世代のスマートファクトリーDS2の構築に向け、活動を開始したのです。

新工場DS2の構築では、徹底的な自動化・無人化へ

DS1では、機械の稼働状況をモニタリングし、稼働履歴から出来高、生産計画に対する進捗まで見える化し、目標通りに生産が進んでいない場合は課題を分析しながら、PDCAやMAIC(Measure-Analyze-Improve-Control)のカイゼンサイクルを回しました。
DS1から更に進化したスマートファクトリーDS2の実現に向けて、製造本部と技術本部が連携し、DS-Xプロジェクトを立ち上げ、さらに進化した、工場全体に最適な生産システムを構築しました。技術本部は、製造本部をお客様と捉えてDS2の自動化ソリューションを提案しました。
マスカスタマイゼーションの実現において鍵となったのは、
(1)自動化・無人化による生産性向上、
(2)生産工程の制御性能の向上、
(3)全体最適
です。
また、社内の情報システム部門と連携し、業務・計画システム(ERP)、製造実行システム(MES)、工場制御システム、機器制御システム、設備管理システムの階層ごとに設計し、ロボット、自動搬送装置等を高度に活用することで、徹底的に工場の自動化・無人化を目指しました。
究極の多品種少量生産を志向したDS2(Dream Site 2)は2017年に竣工。対象品目がDS1からDS2では大幅に増大しましたが、旧工場比で生産性を向上し、生産リードタイムも短縮しました。

マスカスタマイゼーションを実現するスマートファクトリーとは

スマートファクトリーは、スマートマシンスマートマニュファクチャリング(ロボットを駆使した自動化、AI・IoTの高度な活用、生産の進捗・稼働監視)で構成しています。
無人化・自動化を行えば行うほど、工作機械には知能化が重要となってきます。スマートファクトリーの中核要素となる知的判断能力をCNCに搭載し、機械が自律的に分析・判断することが有効です。また、金属3次元積層造形、レーザー焼き入れ等の機能をスマートマシンに組み込み、素材から部品完成までの工程を1台で完結(工程集約)させることも可能としています。

さらにロボット技術を駆使し、素材投入から加工完了品まで、大物部品の着脱・搬送を完全自動化としました。最大可搬重量1,350 kgの大型ロボットを活用し、素材・ワークと治具の自動交換を行っています。
新物流管理システムでは、全ての部品にワークID(認識タグ)を装着することで所在や状態を正確に把握します。加工が完了した部品は優先度順に、最適に次工程に供給します。従来は後工程に向かうほど遅れが拡大する傾向にありましたが、日単位であった指示を時間単位、分単位に精緻化して工場の制御周期を高速化することで、生産リードタイムの短縮に繋がり、スループットを高めました。

生産工程で改善すべきムダを見える化して、ロス対策も行いました。これまで機械の高精度化と高速化の追求により不良ロス、速度ロスの最小化を追求してきましたが、実際に生産に影響が大きいロスは、停止ロスと待ちロスでした。自動化をさらに推進し、生産工程で発生するロスを最小化しています。進捗・稼働監視システムでは、対策が必要な工程を特定し、改善ノウハウを取り入れました。改善をシステムに組み込むサイクルを工場全体で回し、進化させています。
部品加工から組み立てまで自己完結一貫生産を行うDS2では、部品加工と組立の生産の同期を図ることが最も重要です。必要な物を、必要な時に、必要な数だけ生産出来るようにしました。
スマートマシンを基盤としてロボットを駆使した高度な自動化、工場制御周期の高速化、進捗・稼働監視の取り組みを進めることにより、稼働率を高め、24時間稼働により生産効率は大幅に向上しました。

ソリューションの提供とCPSの課題

DS1、DS2で蓄積したノウハウを「ものづくりサービス」ソリューションとしてお客様に提供していきます。お客さまからは、「稼働率が『大幅に向上できた』、『前向きにカイゼンの取り組みを行うようになった』」という声をいただいています。生産の見える化によって工場全体の最適化が進み、現場の改善サイクルが回り始めたと言えるでしょう。
一方、CPSの推進においては、常に解決すべき課題が現れると感じています。一定期間、改善活動に取り組んでいると重要になってくることは創意と工夫です。改善サイクルを回し続けるためにはサイバーとフィジカルの連携、そして「人のモチベーション」を喚起する環境と仕組みが大切と感じています。

自動化と熟練の技が織りなす工場へ

DS2はこうした取り組みを通じて生産性の向上、すなわち、生産リードタイム(加工時間+移動時間+待ち時間)の短縮、スループットの向上に取り組んでいます。マスカスタマイゼーション、超多品種少量生産における生産性の最大化の取り組みはまだまだ続いていきます。
当社のスマートファクトリーは「自動化と熟練の技を織りなす未来工場」をコンセプトとしています。ものづくりは、やはり熟練の技、基礎研究力、基礎技術力が大事です。そして、IoT、AI、自動化、ロボティクスは駆け足で進める俊敏さが大事です。ものづくり基盤の継続的強化を大切にして、「自動化と熟練の技が織りなす未来工場」から、「最高のものづくりサービス」を切り拓き、世界のお客様にお届けしていきたいと考えています。<終>