【ブラザー工業】お客様に信頼される工場を目指し、現地従業員の自律的な行動を中核とした、BMX独自の人財育成

兄弟機械(西安)有限公司
董事長総経理 松尾 博巳 氏
総合企画部 王 佳 氏
総合企画部 蘇 茜 氏

(松尾氏)
ブラザーグループは、2018年4月に創業110年を迎えました。グループの2017年度の売上収益は7,130億円、そのうち約6割がプリンティング事業、約2割が当社の所属するマシナリー事業の売上です。
当社は英名の頭文字からBMXと呼ばれています。BMXは2001年8月に設立したブラザー工業100%の出資会社で、敷地面積は約8万平米、生産品目は工業用ミシンと工作機械、従業員は約1,000名。縫製工場の生産性向上に応えられる多様な特殊ミシン(専用機)や、自動車関連、二輪関連のほか、スマートフォンやタブレットなどのキーパーツを製造する工作機械を生産しています。元は1993年に中国国営企業とブラザー工業との合弁会社として設立されましたが、2010年に現在の社名となり、2013年にはこれまで3か所に分散していた工業用ミシン、産業機器の工場を統合し、新工場へ移転し現在に至っています。
人が財産であり、人が育成が進み、育った人が活躍することでBMXも成長し続けています。2018年度からは「世界No.1のモノづくり工場を目指す」というキーワードを追加し、従業員一丸となり、目指す姿に向け日々努力を重ねています。
また、BMXでは社会への貢献と人財育成に強いつながりがあると考え、環境保護活動、大学との技術交流などの社会貢献活動を積極的に行っています。その成果として、中国外資企業協会主催の「中国外資系企業・優秀CSR事例」表彰を3年連続受賞しています。

取り組みの背景と活動を加速させた原動力

人財育成推進の背景には2つの要因があります。
それは、ミッションの変化と、人財育成の目指すものの変化です。ミッションが変化すると、スキルやノウハウも、BMX個社だけの課題ではなく、グローバル各拠点も巻き込んでいこうという大きな視点に変わっていきます。そうした変化は、「信義と尊敬」を実践するコミュニケーションや対話の場づくり、奨励制度の見直しなどと結びつき、人財育成の取り組みそのものも進化しました。
大きな教訓は従業員間のコミュニケーションが、質・量ともに密になったこと、もう1つは経営理念の重要性の理解が深まったことでした。
人財育成を加速させる原動力は「体系化された教育の仕組み」と「経営理念の共有」。この2つが並行して進むことで従業員の自律が進むと考えています。BMXは自律に「律する」という字を使っているのは、ブラザーグループの理念のもと、自ら考え行動するという意味が込められています。

(王佳氏、蘇茜氏)
続いて、人財育成を進める仕組みと、その活動内容について説明します。人財育成を進める仕組みは2つ、「全社教育体系」と「理念共有活動の仕組み」。自律的に考え、自律的に行動し、自律的に互いを高め合う。仕組みとそれを支える企業文化が人の成長を生み出すと考えています。
教育体系は、職位ごとに必要なスキルを3つの切り口にし、各プログラムの講師は可能な限り社内で担当しています。ナショナルスタッフ(以下、NS)内部講師の育成も進んでおり、NS講師はここ2年間で3.5倍に増え、全カリキュラムの70%を担当するまでになりました。
なお、ナショナルスタッフとは、中国人も日本人も互いに信義と尊敬で接する存在、という思いを込めて表現しています。
また、工作機械のコア技能を高めるための社内育成機関「匠道場」では、機械仕上げや機械保全を80時間の実践教育体系で学べます。2014年までは日本から講師が派遣されていましたが、2015年からはNSが講師となり、計画立案から教育の展開、最終試験の実施、認定式までの全てのプロセスの企画・運営を担当しています。

次世代人財育成プログラムの特徴

グローバルで活躍できる人財育成のため、2017年度から18名の次世代リーダーを対象とした育成プログラムを展開しています。その報告会では成果を生み出す「プロセス」に焦点を当て、ミッションや企業理念、グローバル憲章との結び付きなどを振り返りました。参加者自らが課題を設定し、解決策の策定、実践アプローチ、フィードバックを行い、その結果を共有、見える化する仕組みです。このプロセスを通じ、個々の人財が次のステージへステップアップしていくための課題解決力やコミュニケーション力強化が進んでいます。
人財育成の推進者が重視しているのは、傾聴とPDCAです。傾聴はトップの思い、課題意識、育成対象の困りごとに徹底して耳を傾けること。そこで得られた意見を改善に活かしてPDCAを回すこと。この視点でメンバーに声掛けすること、コミュニケーションを深めていくことは、課題解決だけでなく、実践に向けての勇気づけや、円滑な意見交換を通じたチームワーク強化にもつながります。

グローバル憲章を日常行動につなげる

グループ全従業員の「行動の礎」がグローバル憲章です。多くの文言で構成されている理念ですが、各拠点で「特に大切にすること」を決めた上で、その共有・浸透活動を行っています。BMXでは、自社のミッション・ビジョンとのつながりを重視し、「認める」「励ます」「助け合う」「変えていく」といった日常行動につながるよう、約30名の推進リーダーが全社に広げる活動を行っています。
このグローバル憲章を共有・浸透させ、組織の活性化を図るため、私たちは3つの工夫をしています。
(1)つながり
各職場で「現場の声を聞く」ことでつながりを強化。アドミニ系の推進事務局が、現場のリーダーを訪ね、“心で”傾聴します。壁をつくらないように意識的に「私たち」を主語にし、職場に合った取り組みをどう進めるかを繰り返し相談し、実践を積み重ねていくことで信頼関係を強めています。
(2)コミュニケーション
直接対話に特別な時間を取ることが難しい場合を想定し、イントラの「いいね!」システムによる情報共有と好例の展開を進めています。2016年から実施し、2017年からは月1回優秀行動事例を配信。閲覧数は2016年の370人から2017年の500人に増加。閲覧数が増えることは、職場での効果的な取り組みに気づき、全社に広めていく行動が増え、互いを尊重し合う風土も醸成されていきます。
(3)グローバル
BMXの取り組みは、ブラザーグループ内でも注目され、全社を巻き込んだ取り組み、ノウハウを日本、ベトナムなどグローバルで共有しています。

活動の成果と今後目指すもの

成果の1つ目は、生産性向上への貢献です。人財育成に取り組むことで人が育ち、ものづくりのプロセス改善が進みます。2つ目は社内講師の増加とグローバル成長戦略への貢献です。「匠道場」のNS講師は自社内のみならず、ベトナム工場のスタッフの製造ノウハウ・スキルの向上にも貢献しています。3つ目は各現場の「自律的な変革事例」が増えていることです。イントラを通じ、BMXの事例を積極的にグローバルに配信。その発信件数は、3年連続で中国トップとなりました。4つ目は従業員意識調査で、「誇り度」「成長実感」が向上。BMXで働くことを誇りに思う、仕事の中で成長を感じられる。その意識の高まりが1人ひとりの自律的な行動と成長につながり、BMXらしさ溢れる独自の企業文化醸成にもつながっています。

今後、目指す方向は2つ。1つはブラザーの製造戦略の担い手として、顧客価値を生み出す範囲を拡充していくこと。2017年、NSが考案した製品品質向上のための機構が、中国で初めてとなる特許取得につながりました。お客様に対して更なる価値を生み出せるBMXを目指します。2つ目は今回の受賞に当たり、審査委員からいただいた貴重なフィードバックです。次年度に向け、そのアドバイスを最大限に活かしていきます。
グローバル憲章の共有が進むことで、従業員の積極的な行動が広がり、人は必ず育っていきます。その過程で自分自身の成長を実感できることは、従業員1人ひとりの誇りにも結び付くと捉えています。BMXは今後、さらなる進化のステージへと飛躍していきます。(終)