【東レ】テキスタイル事業における工場改革・競争力強化

東麗酒伊織染(南通)(東レ)
総経理
秦 兆瓊 氏

東レグループ、TSD社の概要

東麗酒伊織染(以下、TSD社)は、1994年8月に設立した合成繊維織編物の製布・染色加工・縫製および販売等を主な事業内容とする東レグループの企業です。資本金は14億4000万人民元 (約216億円)、従業員数は1,680名(2019年8月現在)であり、上海から北西へ約100kmの南通市に所在しています。

TSD社の直近8年間の企業概況は、主要指標である売上高、販売数量、営業利益、販売単価はいずれも概ね良化しており、拡大する中国企業に先端材料を供給する中国屈指のテキスタイルメーカーとして成長を続けています。また、中国人スタッフが改善の実務運営を行い、日本人はサポートに回る形で、経営の現地化が進んでいます。

活動を進めた背景

TSD社は2007年に黒字転換したものの、創業時からの累積赤字があり、油断できる状態ではありませんでした。加えて、5年で賃金を倍増するよう政府から指示が出されていた事もあり、それ以後もコストアップが避けられない状況でした。

一方、2008年に発生したリーマンショックで中国経済も混乱を極めていたものの、同じ年に開催された北京オリンピックの影響でスポーツアパレルが成長。内需が拡大したこともあり、高度成長軌道に復帰することができました。

生産部門のKPI(重要業績評価指標)の推移を振り返ると、2006~2008年は徐々に成果が出始め、1ランク上の生産管理の追求が可能な状況になっていたことが分かります。その一方、安全面では、操業以来従業員数が急増し離職率が高い状態が続いたため安全意識の低い状態が続いたことや、事業・生産の急拡大に伴う作業・動線も複雑化したことで怪我のリスクが増えていたことがうかがわれます。

これらの背景から、高付加価値品の生産販売化、徹底的なコスト削減、安全な工場作り急務であるとの結論に至り、限界利益の改善やスプレッドの飛躍的な改善を目指しつつ、安心して生産できるための工場改革競争力の強化に取り組みました。

活動内容

以下、取り組んだ4つの活動について紹介します。

(1)継続した人材育成による中国現地スタッフの成長
TSD社は、社長が毎日率先して現場を巡回し、Face to faceで社員とのコミュニケーションを行うことが基本と考えて、継続推進しています。また、それを補完する形で行われている「管理者による夜間パトロール」では、現場で認識された課題をオペレーターと共有することで、迅速な解決が可能となりました。更に、相互の信頼関係を現場で構築・深化することで、「自分達の会社を良くする」という自律・自覚が芽生え、「現場管理において継続は力なり」と管理者が実感できるようになりました。「参事以上により行われている土日祝日のパトロール」では、管理者層の夜間パトロールと合わせ、複眼で抜け・漏れなく管理できる体制を構築しました。他部署の高職位者がオペレーターと直接コミュニケーションを取ることが、オペレーターのモチベーション向上と安全管理の強化につながっています。

人事制度として導入した「公平・公正・公開」の確立により成果が公の場で認められる制度の構築との相乗効果により、継続的に「For The Company」精神の醸成と、経営・組織の課題解決力の向上に繋がっています。

現場人材育成の一環として5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)活動も取り入れました。該活動では、「日々の課題発見と改善活動」の重要性と効果を全員が実感できるよう工夫しており、本活動を粘り強く続けることで一人ひとりがルールを守る5S実現にも繋がっています。5S活動を支えているのが小集団活動です。2012年当時、小集団活動の課題の大部分は、安全でした。しかし、改善を繰り返し行うことで工場内の危険箇所が減少し、近年では品質・効率化課題への取組が拡大するなど小集団活動が高度化しています。そのほか、現場人材の育成として多能工化が加速し、将来の成長・成功のための原動力になっています。

会議の見直しも行いました。具体的には、運営自体を現地化し、迅速な意思決定を重視して立ちミーティングを導入するなど、会議の効率化を行いました。加えて、社内旅行、新年会、懇親会に社長が参加するなど、コミュニケーションを活性化し、風通しのよい職場風土を醸成することで、「東レの会社」から「自分達の会社」へと意識の向上を図りました。

(2)高付加価値品(品質・品位向上)への転換
商品企画部門を新設し、営業の主役を中国人として、日本人は戦略・企画・開発に特化しました。営業マン一人ひとりが意識改革を図り、経営管理指標と利益の達成へと意識転換したことで、収益力、納期順守率ともに向上しています。

さらに、商流革新と値上げの両輪により、不採算の取引を撲滅したり、絞り込んだ生機品種を様々なターゲットに展開したりするなど、商品開発手法を応用した改革を実施しました。それにより、継続的に新商品率のアップと商品の高付加価値化を達成することが出来る様になり、顧客満足度向上にも大きく貢献しています。

(3)“安心して”生産できる工場づくり
工場レイアウト(動線)の適正化により危険の芽の減少や、作業スペースの確保が可能となり、効率アップによる検査機台数の削減や要員の適正化が行えるようになりました。現在も、SCRUM活動(※1)、シックスシグマ活動(※2)を継続して推進しています。
※1:共通のゴールに到達するため、チームが一体となって働くこと。
※2:事業経営の中で起こるミスやエラー、欠陥品の発生確率を3.4/100万(6σ)を目標に推進する継続的な経営品質改革活動。

その他、社外講師を招いて行う「データの分析や活用ができる人材」の育成、ICTを活用した染色工場の労働生産性向上など、様々な取組みを実践しています。

(4)危機的な安全成績の改善
安全マネジメントについては、トップダウンボトムアップの両面および設備面意識面の両面から、活動を全方位的に毎日着実に実施しています。また月1回、5工場の全員を対象にした工場長による安全講話を実施。そこで指示された内容については抜打ち試験を行い、各個人別にチェック結果を記録しています。

また、従業員は家族写真を携帯し、怪我をした場合、本人はもとより家族が悲しむことを理解し、安全意識の改善につなげています。

まとめと今後の取組み

現地スタッフの意識改革を目指し、「自分たちの会社」として考える企業風土の醸成に取り組みました。管理職層の意識改革を目的としたコミュニケーション良化のため、多岐に及ぶ「工夫ある施策」を推進し、モチベーション向上策や弛まぬ人材育成など、安心して生産できる工場づくりに愚直に取り組みました。

また、生産分野ではIoTを使用し、データを活用した科学的な根拠に基づく一段高い改善が実現できるよう、データ活用と解析に関する教育を推進しています。さらに、工場マネジメントにおいても、ICTと人の知恵の融合によって、マネジメントの高度化も図っています。

今後も現在のファクトリー・マネジメントの温故知新を実施・継続し、リバースイノベーションも検討課題に掲げながら推進し、さらなる発展のためにチャレンジし続けて参ります。(終)