【デンソー】競争力のある複合工場(ミニデンソー)のグローバルモデルの実現

PT. DENSO INDONESIA(デンソー) 
Production Center Director
久保 崇 氏

デンソー・インドネシアの概要とファジャール工場の特徴

デンソーは、パワートレイン、エレクトリフィケーション、サーマル、モビリティ・エレクトロニクス、センサ&セミコンダクタの5つの事業分野をコアとした技術・システム・製品を提供しています。

デンソー・インドネシアは、1975年に設立し、上記5つの事業分野の主要製品を生産しています。売上高は、約851億円(2019年3月期)、従業員は約4,600名(2019年3月現在)であり、デンソーグループの海外拠点でも、トップクラスの規模を誇っています。スンタ、ブカシ、そして本日ご紹介する、2014年に生産を開始したファジャールの3工場を運営し、約20製品を生産しています。

ファジャール工場では、7事業部と3グループ会社の13製品を生産し、鍛造・切削から、樹脂成形、基板実装、組付など各種キー製造技術が工場の中に存在しています。デンソー・インドネシアの売上高の推移は、ファジャール工場が稼働した2014年から右肩上がりとなっています。そのため、2019年以降もファジャール工場の拡販と競争力強化が成長の鍵と位置付けられています。ファジャール工場は、デンソーの中でもグローバルNo.1の複合工場であり、今後展開されるメキシコ工場やインド・ハリアナ工場のモデル工場としての役割を担っています。また、多種多様な製造技術、納入先、タクトタイムが存在する工場でもあります。

活動を進めた背景とその仕組み

本活動を進めた背景として、インドネシアで2010~2012年の四輪・二輪の生産台数が急激に伸長したことや、インドネシア政府が2013年から進めたLCGC(Low Cost Green Car)といった優遇税制政策により、大幅な市場の拡大が予測されたため、現地生産拡大に向けてファジャール工場の立上げが必要だったことが挙げられます。

2012~2015年の工場設立期の課題は、以下の3点であります。
グローバルNo.1の工場の確実な立ち上げと、メキシコ工場などのグローバルな複合工場への展開」、
「お客様に対し、13製品の安定した品質・納入基盤の確立」、
「それらをオペレーションする現地スタッフの早期育成」でした。
そこで、以下3つの課題達成活動を通して、リーン生産方式による複合工場モデルの実現に取り組みました。

(活動1) JIT(Just In Time)生産を追求した、クリーンで見通しのよい複合工場づくりを中心とした工場マネジメント基盤の確立
(活動2) 複合工場のシナジーを活かした品質保証体制の強化
(活動3) 人材育成センターにおける高度生産人材の育成

2016~2018年は工場成長期と位置付けていましたが、2014年度以降は金融引き締めなどにより、急激に市場は落ち込み急拡大も期待できないことに加え、日系メーカーが中心だった市場に中国メーカーが参入し、競争が激化してきました。当社では、2015年度に中期計画を立案していましたが、市場低迷時においても計画した利益確保が不可欠であり、市場低迷、競争激化を打ち破る、地域No.1の競争力が必要でした。

また、労務費がアジア全体で2013年以降10~15%/年と急激に上昇したため、従来の低い労務費を活用した労働集約的なモノづくりからの脱却が不可欠となりました。同じく2013年以降、ルピア安が急激に進行したため、日本、タイからの設備や金型などの輸入を見直さなければならなくなり、飛躍的な生産性の向上と生産財の深層現調化を必要としました。

このような厳しい経営環境下でも逆境を跳ね返し、2018年度中に中期計画を必達することと、現地スタッフの自律化に向けて、以下の2つの活動を加えました。

(活動4) 全員参加のFE(Excellent Factory)活動による現場力の向上
(活動5) 内製工機部門をもつ強みを活かした自動化の加速・拡大

(活動4)と(活動5)を追加することにより、市場が落ち込んでも計画した利益を確保できる構え・体質を構築しました。

活動を進める仕組みとして、事業軸では採算など指標管理を行い、機能軸では横串を刺すことによってシナジーを発揮し、きめ細かいKPI管理を行うことで、会社・工場マネジメントを運営しました。活動の達成度評価とフィードバックの仕組みとして、中期目標の達成に関する重要なKPIについては、社長・役員自ら指標別に各会議体で達成度評価とフィードバックを行いました。

活動の実施内容

それぞれの実施内容を簡単にご紹介します。
(活動1)
リーンな複合工場を実現するために、デンソー初のブロック構想を導入することにより、工場レイアウトの変更が容易に可能になり、事業変化に迅速かつ柔軟に対応できるようになりました。また、要求される清浄度が異なる製品に対して、気流制御と異物管理による壁のないクリーンな複合工場を実現し、すべての製品を後工程引き取り・かんばん生産に統一したことで、在庫とリードタイムを低減しています。

(活動2)
各事業グループの強みを1つに融合した5つの取組み(①工程信頼度向上、②監査プロ、③工程プロ、④班長巡回、⑤モノづくりDNA研修)を柱に品質強化の仕組みを構築し、各活動を推進することにより、品質の厳しい製品においても納入不良ゼロを実現しています。

(活動3)
人づくりを重んじ、現地スタッフ自らが研修内容を考え、運営することにより、デンソーのモノづくりを学び、実践できる現場作業者を育成しています。また、訓練道場と現場では、品質を担保する現場作業者(工程プロ)と将来の現場の幹部を育成し、世界技能五輪にも挑戦しています。

(活動4)
現場監督者が中心となり、ボトルネックとなっている工程を明確化し、改善サイクルを継続的に繰り返すこと(ボトムアップ活動)により、チャレンジ精神、高い感度、スピード感のある現場づくりに取り組みました。

(活動5)
自動化を効果的に実現できるように、3つの切り口(①工程の自動化、②検査の自動化、③物流の自動化)を定義して推進しました。自動化プロジェクトの推進体制は現地スタッフを中心に全社横断チームをつくり、活動を牽引しました。

そのほかの活動として、挨拶活動やスポーツ大会、研修や慰安旅行などを実施することにより、モチベーションの向上と一体感を醸成し、職場風土の改善にも取り組んでいます。さらに車椅子を製作し寄贈するなど、地域社会にも貢献してきました。

活動の成果と今後の方向

活動の成果として、市場の低迷、労務費の高騰、為替環境の悪化にもかかわらず適正な利益を確保し、2018年中期計画を達成しました。また、複合工場のグローバルモデルとして、目指す姿と活動をメキシコ工場やインド・ハリアナ工場へ展開しています。

今後の方向性として、拡大・成長が期待される新興国において、競争力のある複合工場の姿を継続して展開・発信していきたいと考えています。また、2021年中期計画の達成に向けて、工場の再編、グループ4社の生産体制再編により、さらなる進化と競争力の向上を目指しています。(終)