度重なる災害を踏まえた大阪府の今後の対応

大阪府 危機管理室
防災企画課長
宍戸 英明 氏

大阪府で想定される地震と「新・大阪府地震防災アクションプラン」

大阪府を囲む4つの断層帯の中でも、上町断層帯は大阪府の中心を通っており、直下型地震のリスクがあります。そして、その経済被害は19.6兆円に上ると推定されています。また、今後30年以内に70~80%の確率で発生するとみられる南海トラフ巨大地震については、1854年の安政東海地震(M8.4)以来、東海地震域が約160年の空白域となっており、いつ起きてもおかしくない状況です。

南海トラフ巨大地震の人的被害想定(2013年10月)では、津波による死者を132,967人と予測しています。ライフラインは上水道、電力、ガス、電話は30~50%に影響が及ぶとされています。上水道に至っては約94%が断水となり、復旧も1日後に回復に向かうとされていますが、自然災害なのでどのような状況になるのかはわかりません。

また、地震による大阪市内の浸水被害面積は約11,000ヘクタールと予想されています。USJ は高い所にあるため、シミュレーション上は浸水被害が出ていません。USJで地震に遭った場合は、食料の備蓄なども行っているので待機していただいた方がいいかもしれません。それ以外の大阪市内の場合は、高いビルに登ってください。

どれぐらいの時間で津波が到達するのかというシミュレーションでは、地震発生から南端の岬町では約60分、大阪市中心部では約120分で1 メートル以上の津波が到達するとされています。もともと海だった大阪は川の堆積土砂が長年かけて蓄積し、大阪平野ができました。そのため液状化する可能性が高く、かつ地盤が弱く、低いという特徴があります。

このような状況を踏まえて、大阪府がどのような取組みをしてきたのか。「新・大阪府地震防災アクションプラン」という10年間の計画を立て、2015年度から取り組んでいます。基本方針に基づき目標達成に向け、3つのミッションを設定し100のアクションを位置づけています。主なものに、防潮堤の津波浸水対策の推進、在住外国人への情報発信の充実、外国人旅行者の安全確保、大阪880万人訓練の充実、鉄道施設の防災対策、帰宅困難者対策の確立などがあります。

2018年の自然災害と災害に対する大阪府の検証

2018年6月18日午前7時58分、大阪府北部を震源とする最大震度6弱(M6.1)の地震がありました。死者6名、負傷者369名、18棟が全壊、半壊512棟、一部損壊55,081棟という被害状況でした。また昨年は台風第21号が大阪を来襲し、死者8名、負傷者493名の被害が出ました。大阪を襲った過去の3大台風(1934年の室戸台風、1950年ジェーン台風、1961年第二室戸台風)は防潮堤を整備するきっかけとなりました。3大台風を契機に、高潮を防ぐために整備した安治側水門、木津川水門により、昨年の台風では浸水被害は報告されませんでした。

大阪府は2018年7月、大阪府北部を震源とする地震などに対する対応を踏まえ、これまで進めてきた上町断層帯や南海トラフ巨大地震等に対する被害軽減対策をさらに強化・充実を図ることを目的とし、「南海トラフ地震対応強化策検討委員会」を設置しました。主な検討項目は、①府の初動体制と市町村支援のあり方、②出勤及び帰宅困難者への対応、③訪日外国人等への対応、④自助・共助の推進、で昨年12月に最終的な取りまとめが行われました。

検討委員会に際し、各企業と府民に意識調査を行いました。府民意識調査では前年度に比べ、地震や台風大雨など自然災害に対する意識は大幅に増加し、意識していない割合が約30ポイント低下しましたが、「防災に対する家庭の備え」は低い状況です。「災害が起こった時に助けに行こうと思いますか」という共助の意識は「行うと思う」が4割と、「行わないと思う」を大きく上回っています。

企業向けの実態調査は2018年8月に5,000社を対象に実施し、「リスクを具体的に想定して経営が行われていますか」は47%が「行っている」と回答。また「事業継続計画(BCP)の策定状況」には、6割強が策定または策定予定と回答しています。BCPの策定状況を企業別に確認すると大企業に比べて、中小企業の策定が遅れているという結果でした。

安否確認システムの導入などの連携強化などは、府として市町村を支援していかなければなりません。この教訓・課題を踏まえて、人的にも計画面でもスキル面でも仕上げのための取組みを行っていく予定です。

大阪府の今後の取組み

巨大地震が発生した場合、当日最大で約146万人が帰宅困難になると想定されます。参考例として、東日本大震災発生時の首都圏の帰宅困難者数は東京都で352万人でした。
まず行政が行うのは、帰宅困難者の一斉帰宅の抑制です。発災して72時間は人命救助に重要な時間と言われていますが、一斉に帰る状況が発生すれば、道に人が溢れ緊急車両の通行に支障をきたします。帰宅困難者対策として3本柱に取り組んでいます。3本柱とは、発災後72時間までの①一斉帰宅の抑制、②ターミナルでの混乱防止、③72時間以降の帰宅支援、です。

大阪府では事業所における「一斉帰宅の抑制」対策ガイドラインを策定しています。昨年の大阪北部地震が朝の出勤時間帯に発災した教訓を受けて、「事業所における『一斉帰宅の抑制』対策ガイドライン」を追加しました。時間帯別行動パターンをルール化し、①出勤時間帯に発災、②就業時間帯に発災、③帰宅時間帯に発災、に分け、事業所がとるべき行動として新たに加えられました。

また、災害時に徒歩で帰宅者が円滑に帰宅できるよう、水道水、トイレ、沿道情報等の支援施設を「災害時帰宅支援ステーション」として、コンビニエンスストアなどと協定を結んでおり、協力店舗数は2018年2月現在で11,799店舗ほどあります。該当店舗には「災害時帰宅支援ステーション」のステッカーが貼ってあります。情報は大阪府のサイトにも掲載していますので興味のある方はダウンロードしてください(※1)。
(※1):http://www.pref.osaka.lg.jp/kikikanri/kitakukonnan3/index.html

最後になりましたが、阪神・淡路大震災における、がれきの下から市民による救助者数と消防、警察、自衛隊による救助者数の対比では、近所の住民らによって救出された人が約27,000人と約8割を占め、消防、警察、自衛隊によって救出された人は約8,000人でした。普段から支え合う関係が、大規模災害における犠牲を最小限に食い止めるために大きな役割を果たしています。

大阪府では災害時による人的被害、経済被害を軽減する減災のための備えを一層充実するため、災害応急対策や災害復旧などにご協力いただける民間団体や企業、NPO 法人等との各種防災協定の締結を進めています。企業の方々にもご検討いただけると幸いです。(終)