途上国での未舗装道路整備

―NPOによる貧困削減と若者雇用創出に対する挑戦―

京都大学大学院 工学研究科 教授
NPO法人 道普請人 理事長
木村 亮 氏

土木技術で貧困削減を可能にする方法とは

私には京都大学の教授、NPO法人道普請人(みちぶしんびと)の理事長、そして企業アドバイザーという3つの顔があります。その中でも最も楽しんでいる活動を今日は皆さんにご紹介します。

国連はSDGs(持続可能な開発目標)として、2030年までに実現する17の目標を掲げています。私たちのNPO法人ではその中の1つ「貧困をなくそう」を目標に、アフリカやアジアで地元住民に未舗装道路の補修技術を教え、その技術をもって若者たちの雇用を創出する活動を行っています。余談になりますが、私のような社会問題を解決するNPOで活動を行う人たちを社会起業家(ソーシャルアントレプレナー)と呼び、最近では学生の就職口としても人気があります。

まずは、NPO設立に至るまでの経緯を少し説明します。私は学生時代から世界中を旅して周り、大学院時代には1年間休学してサハラ砂漠を自転車で縦断するなど、これまでに訪れたアフリカの国々は22にのぼります。いつしか、何度も訪れたアフリカの人々を幸せにする方法はないかと考えるようになりました。恩師から「難しい技術ではなく、簡単な方法を考えないとダメだよ」と言われ、機械や最新技術などを使わずに、住民自らの力でできるもの、その具体的な方法を導き出すのに5年を要しました。

最終的に「農道整備」の重要性に思い至り、2005年に活動をスタートしました。発展途上国の農道は未舗装道路が約9割を占め、雨季には道がぬかるみ、部分的には車両が、場合によっては人も通行できません。農作物を市場に運べないため、収穫しても換金できず、貧困から抜け出せない、という問題がありました。また、道がなければ、病院や学校にも行けません。

土木の原点は、人々の暮らしを守り、豊かにすることです。世界の貧困削減に土木技術者として何ができるのか。そのためにはニーズの探索と具体的な解決法の提示、また住民に対するチャリティーだけではなく、住民自らがビジネスとして存続できる、という観点が重要でした。

そこで考えた方法とは「土のう」(Low tech)を利用した、人力による(Labour base)、安価で(Low cost)、そして現地で調達可能な材料と住民自身(Local)が行えるという、4つのLでした。「Links to Market! (道を市場につなげよう!)」をキャッチフレーズに活動を開始しました。

忘れ去られた未舗装道路をどのように整備するのか

一般的に「土のう(Do-nou)」は重しとして使われ、締め固めることはしません。その特性を使い、土のう袋を二層にし土砂を詰め、その上を5センチの土で覆います。これで世界の道路を強靭化しているのです。

ケニアでは、状態のよくない道路2万キロの補修は建設会社が行っています。トラックで土を運び、ロードローラーで締め固め、土を撒くのは人力、最後の水撒きはタンク車で行っています。これがレーバーベーステクノロジーです。しかし、この方法ではコストが嵩み予算も取れないため、住民自らが土のうで道を補修する必要がありました。土のうなどによる道路改修の開発、提案を行うことで、住民自身による持続的な道路維持管理システムが構築できます。自分たちの問題は自分たちで解決する、また解決できることは次の発展への体力作りにもなります。さらに建設会社を独自に設立し、発展することも可能になります。

ミャンマー、エーヤワディー地域では、①雨季になると道がぬかるみ転倒事故が相次ぐ、②悪路と橋の問題で車両通行不可、③コミュニティで道路補修を行っているがデルタ地域のため道路補修に必要な土・石が入手困難、という問題がありました。
土のう袋には周辺の粘土を有効活用することでコスト削減を図り、毎日50名以上の村人たちが工事に参加、乾季に入ると早朝や夜間にも工事を行い、約1年で1,200メートルの補修を行いました。

世界27か国で活動中のNPO法人「道普請人」

2007年12月に法人として設立した道普請人は2016年には認定NPOになりましたが、初めて施工を行ったのは2005年5月のパプアニューギニアでした。

現在個人会員は約150名、団体会員は14社を数え、NEXCO西日本、鹿島、計測技研、日本橋梁、清水建設、阪神高速などが名を連ねています。2012年には京都駅前に事務所を開設し、ケニア・ルワンダ・ウガンダ・ミャンマー・ブルキナファソにも事務所があります。2007年に300万円でスタートした事業費は、2018年には1億7,000万円規模に拡大しています。これはNPOでも経営感覚を持ち、世界の貧困を土木技術を使ってなくす、という目的がぶれていないこと、が要因だと考えています。

道路の補修を自分たちで行ったことで、作物を腐らせずに出荷できるようになり、収入が向上し労働者を雇えるようになったウガンダの人がいます。これまで仕事を手伝わせていた子どもたちを学校に通わせられるようになり、今では子どもたち全員を大学まで通わせる夢ができました。仕事が見つからず、将来に希望を持てずにいたケニアの青年は、道直しの研修に参加したことがきっかけで、仲間たちと小さな建設会社を設立しています。

話が少し脱線しますが、最近出会った私が面白いと思った人物と会社を紹介します。
リバネスの丸 幸弘氏はユーグレナ(ミドリムシ)をプロデュースした人物ですが、
PDCAサイクルではなく、「QPM(Question→Passion→Mission→Innovation)で回せ」と主張しています。
そのQPMI発想で面白い企業は、クモの糸のたんぱく質で洋服を作っているSpiberです。
TBMは石の紙、石灰石からつくる新素材LIMEXをつくっています。

なぜこれらの企業が強いのか。
それはQuestion、Passionが強いからではないでしょうか。
国際技術協力に携わる場合にも、「発想の大転換+若い人の力」が重要だと考えています。

若者の雇用創出プロジェクト(ILO)では、貧困が理由で技術を習得する機会が得られないため就業できず、反社会的行動が増加するといった、若者を取り巻く悪循環を断ち切ることが、国家の喫緊の課題だと指摘しています。解決の糸口は若者の雇用を創出すること
例えば土のうによる道直しで技術を身につけた若者が、それをきっかけに道路整備の会社をつくり、生活の質を向上させ、貧困を削減していく。ケニアではこれをビジネスモデルにしています。私は「土のう工法研修による若者雇用促進モデル」において政策・提言を強力に行っていますが、これを、全世界に拡げていきたいと考えています。

最後となりましたが、「Link to Markets!」では、27か国、174キロにわたる道路補修の活動を行ってきました。今後は世界でもユニークなオンリーワンのNPOとして、医療分野の活動に貢献しているビル・ゲイツ氏に手紙を書いて接近したいと考えています。道が悪ければ病院や保健所に行けないからです。将来的には「ノーベル団体平和賞」を目指して、日々活動しています。(終)