自動車における車両生産技術革新とものづくりの将来

日産自動車株式会社
常務執行役員 アライアンスグローバルVP
車両生産技術開発本部 担当
吉村 東彦 氏

2日目である4月18日には日産自動車株式会社の常務執行役員 アライアンスグローバルVP 車両生産技術開発本部 担当である吉村 東彦氏が登壇。自動車業界のトレンドである、電動化・自動運転化を交えながら、同社の新商品の特徴、環境対応の取り組み、今後の展望についてご講演いただきました。

新しい商品(EV、自動化)

本日は、当社で取り組んでいる電動化と自動運転の技術についてご紹介します。今、自動車産業が抱えている大きな課題は、「エネルギー」「地球温暖化」「渋滞」「交通事故」の4つだと捉えています。これらの課題を解決する方法として、電動化、そして自動運転化があります。

今後、電気自動車に求められることは、安全性能はもちろんのこと、航続距離そして走行性能をさらに充実させていくことです。そのためにはバッテリーの技術改善車両自体の軽量化技術というものを高めていかなくてはなりません。

しかし、それぞれの課題を別々に解決することは難しいのです。というのも、航続距離を稼ごうとするとバッテリー容量を上げていく必要があり、そうなるとバッテリーが重くなって車両全体の重量が増えてしまいます。そういった意味で、バッテリーとモーター自体の開発だけでなく、ボディや内装部品の軽量化技術も開発することが欠かせません。

こうした課題に対応するため、当社の新型リーフのバッテリーには、これまで使用していたニッケル・マンガンにコバルトを加え、3つの元素を使った正極材を採用し、また効率的なバッテリーパックの設計をすることによって、バッテリー容量を62kWhと従来から大幅にupさせることができました。

リーフは2010年の発売からの世界累計販売台数が40万台となり、世界で一番走っている電気自動車となっています。この40万台のリーフに搭載されているバッテリーからは未だかつて重大な不具合は一切起きていません。これらのことからもバッテリーの再利用も進められています。

環境対応の取り組みと軽量化技術

環境への対応として軽量化技術について当社の取り組みをご紹介します。High Tensile Strength Steel(高張力鋼)の略である通称ハイテン材の適用が増えてきています。ハイテン材は車体の性能を保ちながら鋼板を薄くし、重量を軽くする技術で、スカイラインでは約11%の超ハイテン材を適用し、30kgの軽減を達成しました。電動車両の軽量化としてはモーターシャフトを鍛造部品の中空化技術により、シャフト自体の重量を約40%軽減することができました。また2001年から樹脂製のバックドアを採用し、その後インナーとアウターにポリプロピレンを採用することにより、軽量化を進めています。

また、CFRP(carbon fiber reinforced plastic)を、2000年のGT-Rのオプション部品としてフロント、フロントエンド、プロペラシャフトに採用しました。14年のGT-Rにはこれに加え、トランクリッドについてもCFRPを採用しています。ただCFRPはまだまだ価格が高い為、今後の採用拡大に向けてはこのコストが課題になります。

アルミニウム材料は20~30%の軽量化が可能ですが、強度と形状の動きを考えて、マルチマテリアルと呼ばれる複数の材料を複合化してボディを組み上げるという手法に取り組んでいます。今までは鉄と鉄を溶接で接合すればよかったのですが、マルチマテリアルに対応すべく、接着、機械締結やメタル外板に直接樹脂を成形する技術等、色々な接合工法の技術開発も進めています。

生産工場における最新技術

生産工場で取り組んでいる新技術・新工法について紹介します。車体接合ではリモートレーザー溶接を2015年に生産を開始したInfinity Q30のドアに採用しています。溶接効率を上げるために、On The Fly制御を取り入れていますが、これにより、リモートレーザーの溶接ヘッドがロボットと連動し、非常に速いスピードで色々な点を接合することができます。また、リモートレーザー溶接を採用する事によって、工程の面積、作業者の数も半減する事ができました。

塗装工程については、ベルカップ(塗料を車体に塗着させるために粒子にするための回転霧化機構)の回転数を下げて塗料粒子の横への拡散を抑えることにより塗着効率の改善を行っています。

樹脂成形では、バンパー成形後に作業者が手作業で行っていたゲートやバリ取り作業の自動化を行っています。ゲートをカッターで切断する時に荷重をうまくフィードバック制御しながら、カッターで製品を切り込まないように制御をしています。

機械加工では、通常、エンジンのシリンダーの部分には鋳鉄製のシリンダーライナーを挿入していますが、ライナーを挿入する代わりに、溶かした鉄をシリンダーボア内部に高速で吹き付けるミラーボアコーティング技術を採用しました。これによりライナーを廃止することが出来、吹き付けるライナーの厚みは0.2ミリと非常に薄いため、軽量化だけではなく、熱伝導率も良くなります。その結果、エンジンの冷却性能も非常に高まり、ノッキングが起こりにくくなり、燃費向上にも貢献しています。

品質保証で重要な計測技術ですが、日産では主要な計測器に、非接触の高精度自動計測機、面差・隙計測器において、仕様及びそのデータ処理ソフトの統一に取組んでいます。

まとめ

今後の自動車産業では、電動化、そして自動運転技術が進化していくことは明らかです。実際に、ヨーロッパ、中国、アメリカなどでも排気規制、CO2規制が強化され、電動化をしていかないとこれからは車が売れません。つまり、各社色々な電動化技術、電動化チャレンジをしていかないと車が売れなくなってしまうということです。

新商品により、車自体が変わっていきます。それら新しい商品の生産に対応していくため、様々な工法・技術の開発に継続して取り組んでいきたいと考えています。(終)