日本発 空飛ぶクルマ‘SkyDrive’開発への挑戦

CARTIVATOR
共同代表
中村 翼 氏

最終日である4月20日にはCARTIVATORの共同代表である中村 翼氏が登壇。
空飛ぶクルマ開発に向けた理念から、取り巻く環境を含めた開発状況についてご講演いただきました。

最強の有志団体、CARTIVATORとは

まず、私の自己紹介を簡単にすると、慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、トヨタ自動車に入社し、2012年にCARTIVATOR(カーティベーター)を発足、2014年から空飛ぶクルマの開発を開始しました。2018年にトヨタを退職し、現在はCARTIVATOR共同代表と慶應大SDM研究科の特任助教のポスト、そしてMinD in a Deviceという会社のCEOを務めています。

CARTIVATOR(カーティベーター)は、「クルマ(CAR)でワクワクする体験を生み出すCULTIVATOR(開拓者」が由来で、個人の集まりから成る、愛知と東京を中心に活動する100名超の最強の有志団体です。主に自動車・航空機、ITのエンジニアや、さまざまな企業の専門家などから構成されるボランティアメンバーと、モビリティを通じて次世代に夢を提供する活動をしています。

その夢とは、
(1)今できないことをできるようにする、
(2)次世代により良い世界を届ける、というものです。

「今できないことをできるようにする」、これはドラえもんの「タケコプター」のように、制約のない自由な移動がしたいということ、そして「次世代により良い世界を届ける」、こちらは2050年をゴールとして、都市化による交通渋滞と、新興国における人口爆発という社会課題に、誰もが自由に空を飛べる時代を創る「3次元交通システムの確立」を目指しています。

CARTIVATORのビジョン実現には、「機体開発」「ビジネス開発」「インフラ開発」「法規・ルール」が必要ですが、まずは空飛ぶクルマの機体を開発し、2020年東京オリンピックの開会式で、聖火台に火を灯すことが第一目標です。

世界の空飛ぶクルマ事情は、2013年までは数社のみが競合していましたが、現在は米国や欧州、中国を中心に140~150社ほどがしのぎを削っています。2014年からCARTIVATORが開発中の「SkyDrive」は、世界最小(※)で公道から離陸可能、かつ直観的操作可能な空飛ぶクルマです。世界に先駆けて、日本の空飛ぶクルマの実現を目指しています。
(※):全長3.6m,高さ1.1m,重量260kg(最大離陸時重量400kg)

空飛ぶクルマ、開発の経緯

2012年、同僚や友人と参加したビジネスコンテスト「維新(これあらた)」で優勝したことをきっかけに、プロトタイプを作ってみようという話になりました。たくさんのアイデアの中から、空飛ぶクルマに決まり、2013年に活動をスタートしました。

2014年には空飛ぶクルマ「SkyDrive」の開発に着手し、半年ほどで1/5スケールの試作機の走行・飛行に成功しました。試作機には50~60万円掛かりましたが、メンバーの頭数で割って、大人のお小遣いで何とか作れました。しかし、その後も活動を続ける中で、1/1スケールを目指すとなると、数千万円ほど掛かるので、2015年には、クラウドファンディングで支援を募りました。また、この年から徳島大学での開発合宿も実施しています。

資金集めには常に苦労しました。そして、とうとう2016年秋には退職届を手にし、勤めていたトヨタの会長と副社長に「会社を辞めて起業しますので、10億円出資してください」と直談判したところ、慰留され、その結果、2017年5月にトヨタグループから3年間で総額4000万円超の支援をしていただくことになりました。またこの年にはメンバーも拡大し、100名超となりました。その後、空飛ぶクルマは、国内外で開発競争が激しくなってきたため、会社の休日などに取り組むだけでは競争に勝てないとの危機感から、トヨタを退職し、開発に集中することになりました。

2018年からの活動としては、有人デモフライトは「飛行するには100%安全であること」が重要で、これを証明しなければなりません。そのため、国交省との交渉が本格化し、またオリンピック関係者との交渉もスタートしました。同年8月には、空飛ぶクルマの実現に向け設立された「空の移動革命に向けた官民協議会」での発表の機会をいただきました。官民協議会という機会を生かし、ネットワークを広げています。さらに、2018年12月には、eVTOL機(いわゆる空飛ぶクルマ)の無人形態での日本初となる屋外飛行試験を開始し、12月13日に初フライトに成功しました。2019年4月時点でのスポンサーは、トヨタ、富士通、NECなど計63社にご支援いただいています。

空飛ぶクルマは、Uberが2023年の実用化を発表していることから、各社追随する動きを見せており、「2023年」がキーワードになっています。CARTIVATORも、設計検証試験等を行いながら、多数の技術課題を克服し、2019年秋には有人機の完成と飛行試験、2020年夏のデモフライト、2023年販売開始に向けて開発を加速させています。

CARTIVATORのビジネス開発・インフラ開発

私は、トヨタの共同研究相手である慶應大学SDM研究科で、2017年4月から研究員となり、「空飛ぶクルマと社会の関係性」をテーマに研究を始めました。機体の開発だけではなく、どう事業化していくかを考えていかなければ将来的に行き詰ってしまうという懸念もありました。

研究内容は非常に多岐にわたり、将来の高密度飛行を実現するための自動管制システム、国内外での市場要求調査、機体の技術実現性調査検証などがあり、要素技術に特化するわけではなく、俯瞰的かつ包括的に連携して進めることで、全体最適を狙うアプローチを取っています。

空飛ぶクルマの実現に向けた課題には、騒音、自動操縦、管制、バッテリー、耐風性などがあります。特に騒音は、ドローンでも課題になっていますが、空飛ぶクルマは機体が大きい分、騒音も大きくなります。また、有人飛行となる場合、パイロットが運転するのか、という議論が出てきます。そもそもライセンスを持っている人は少なく、まだまだ課題は山積しています。

大学では、自動操縦に向けた研究テーマも持っています。例えば、都市部で飛行する際、ビルの谷間のビル風などの突風に巻き込まれないで、いかに安全に着地できるか、こういったことは人の手に負えないところなので、人工知能を使う必要があると考えています。

さらに「人流・物流ユーザーの課題」の前例として、2009~2015年にかけて、赤坂-成田間にヘリサービスがありましたが、風や悪天が原因の高欠航率などで廃止になっています。本来であれば、赤坂から成田空港まで30分で行ける利点があるにもかかわらず、欠航のリスクがあると、結局自動車で行くことになります。これを空飛ぶクルマに置き換え、安くしたとしても、運航の信頼性が低いままでは交通手段として魅力的ではないだろうと考えます。
この背景要因として、出発地点のビル風の強さにより、離陸が不可、到着地点の風の状況を予測できず、着陸できない、そもそも風が弱いことに加え、経路上のリスクを把握する術がありません。この課題解決の第一歩として、突風に対する飛行位置制御技術を開発中です。現状技術の課題は、GPSやSLAMでの位置制御にとどまり、突風による瞬間的な位置ズレには対応ができません。また、姿勢が乱れ始めてから、風の影響が検知されるため、数mのズレが生じ、制御が遅れてしまいます。この解決策として、機体周辺の大気状態をAIで認識し、飛行位置を安定するよう事前に制御し、突風に対して位置ズレを起こさない制御を実現します。
ドローンにも同じような課題があると思いますので、一緒に世界をつくっていきたいと思っています。(終)