建設現場における生産性向上と働き方改革

無事故無災害が生産性向上のカギ

株式会社明電舎 取締役兼専務執行役員
竹川 徳雄 氏

最終日となった7月20日の東5ホールには重電機器、水処理システムおよび産業システム機器などを手がけている明電舎の取締役兼専務執行役員竹川徳雄氏が登壇。『建設現場における生産性向上と働き方改革』をテーマに、明電舎で実際に取り組んでいる施策などの具体例を交えながらご講演いただきました。

深刻化する建設業の担い手不足

建設業就労者数の推移は減少傾向で、特に技能系技術者の減少は非常に顕著です。1997年で685万人だった建設業就労者数は、2017年には498万人という状況です。さらに、少子高齢化問題に目を向けると、2017年の就労者統計では55歳以上が建設業全体の34.1%を占めている一方で、29歳以下の若手と言われる年齢層の比率は11%となっています。高齢化はもちろん、建設業を選択する若手が増えていないということも大きな課題となっています。

労働災害の発生比率が、全産業に比べて非常に高いのも建設業の特徴です。現場の生産性を向上させることも大切なことですが、一番大切なことは、事故や労働災害を防ぐということです。事故が発生すれば確実に現場の生産を止めてしまうので、生産性云々以上の課題なのです。2014年のデータでは、建設業の事故率は全産業の倍以上。最も多い要因が『墜落』の24.7%となっています。こうした数値から、生産性向上の前に、なんとしても労働災害を撲滅させる。これが非常に重要だという認識で活動してきました。

また、建設現場には宿命といわれている3つの特徴があります。お客様の注文に基づいて全てが一品料理である『受注生産』。さまざまな場所で日々変化する条件の中で生産をする『現地生産』。そして、多くの材料を使用することにより専門業者や人に頼る『労働集約型の生産』。こういったことが、今まで生産性の向上を阻んできた理由ではないかと考えています。
昨今のICTやIoTといった新技術が、建設現場の宿命的な既成概念を打破して、効率化を進めていけると感じているところです。

生産性向上を目指すことで働き方が変わる

働き方改革が声高らかに言われていますが、当社でも「働き方改革推進室」というものを昨年度から組織し、積極的に取り組んでいます。目指すのは、年間総日労働時間平均1950時間の達成です。それに向けた働き方の見直しや現場の取り組みをいくつかご紹介します。

まず女性の活躍推進活動。工事部門に限ったことですが、全国に20名ほどいる女性アシスタントに、現場を理解してもらう取り組みを3年前から始めました。手法としては、女性を集めての情報共有や意見交換、さらには直接現場に携わっていない方にも、研修センター等で現場作業を体験してもらう取り組みも行っています。また、女性目線での現場パトロールも定期的に行っており、大きな成果を上げています。さらに、女性が働きやすい環境作りについても、国交省が進めている快適トイレや、ヘルメットの洗浄を行うメットシャワーといったものを積極的に導入しているところです。

変形労働の導入にも取り組んでいます。実例としては、年度末の繁忙期は土曜日を出勤日とする代わりに、上期の比較的仕事の少ない時期に休みを取るといった制度を導入しました。これが非常に好評で、現場の残業が大幅に削減できるようになりました。

また、エルダー制度という取り組みがあります。『エルダー』とは『先輩』とか『年長者』という意味です。当社では、基本的に本人が希望すれば、定年から65歳まで働ける制度になっていますが、エルダー制度では、65歳以降でも健康で資格やスキルがあれば積極的に再雇用をして頑張っていただいております。

電子化や安全対策の実例から見る生産性向上

しかし、これらの施策だけでは工事現場では本当の改革が出来ないということで、工事部門独自の取り組みも行っています。
具体例をあげます。現場の施工管理や図面、チェックリストを紙からタブレット端末へ移行し、業務の効率化を図りました。タブレットの画面で図面を出しながら、現場の写真を撮り、そこに色々な指示を現場で記載し、事務所に戻って職長会などで使用することなども行っています。今まで事務所に戻って書類整理をしていましたが、現場で直接、報告資料の作成ができるようになり、事務所でのデスクワークを大幅に削減することができました。現場での大型機器の組み立て支援には、デジタル手順書の活用を行いました。今までは組み立ての指導員が何人も現地で組み立て指導をしていましたが、デジタル手順書を活用していくことで指導員も減らしていけるようになります。

現場の遠隔支援には、7年くらい前からクラウドカメラを導入しました。水力発電所の発電機の組み立てなどでは熟練技術者が大幅に減ってきています。従来は、組み立ての際には必ずベテランの技術者がスーパーバイザーとして現地での組み立て指導にあたっていましたが、技術者が少なくなってきた中、遠隔支援のしくみを使って現場に経験の浅い技術者を派遣しても、ベテランが遠隔で指示を出して現場をまとめていくことができるようになりました。

現場の一元管理にも取り組んでいます。地方などの遠隔地や小さな現場にはなかなか目が届きにくいのも実情です。そういった現場では、往々にして事故や災害につながるリスクが高くなります。そこで、全国の現場の稼働状況をリアルタイムで把握できるようにしました。現在、稼働している現場はどこか、リスクの高い作業(高所、搬出入等)をおこなっているのはどこの現場か、というのが一目で解りますので、リスクがあるところにはタイムリーに重点管理できるような仕組みとなっています。また、施工体制台帳や現場の週報、完成報告書なども一元管理で、全てのデータを蓄積・取り出しが容易にできるようにしています。
安全体感教育にも取り組んでいます。当初は研修施設で集合研修をしていましたが、参加できる人は職長くらいまでで、いつも同じ人です。本当に教育したい最前線で働いている作業員は中々参加することができません。そういう方々に教育するためには、こちらから出向いていって教育するしかないと考え、昨年度に安全体感車というものを作りました。移動時間がなくなり、極端に言えば、休憩時間で教育が出来てしまいます。そうした短い時間で作業員に安全を意識してもらう取り組みを行っています。

バイタル管理というものも3年ぐらい前から手掛けています。これは、2013年に太陽光発電の現場において、熱中症で関係会社の方がお亡くなりになったことがきっかけです。その時は、休憩も水分もこまめに取らせる等、作業員に対する体調管理もきちんとおこなわれており、15時の休憩時でも元気だった作業員の方が、夕方に「気分が悪い。」と救急車で搬送されましたが、残念ながら翌日お亡くなりになりました。警察、労基も来られましたが現場の対応に問題はなく何もお咎めはありませんでした。しかしながら、一人お亡くなりになった。これは事実です。我々は、こうした災害を予見してなんとか防ぐことができないかと考えています。なにか兆候が必ずあるはずで、そうした状況をいち早く察知するために私たちはリストバンド型のバイタルセンサーを導入しました。

最新技術が災害ゼロを導き出す

ICTを導入したさらなる現場の効率化。若手社員の定着や、女性の活躍推進に向けた作業現場の環境改善。作業員の方々の賃金水準の向上。そして何よりも重要なのが、死傷災害をゼロにすること。いかにして事故を無くすか。安全は何事にも優先します。ヒューマンエラーは言い逃れで、何か原因があるはずですが、それを特定するのは難しいものです。

しかし、昨今ICT、AIなどの技術が進化していますから、バイタルデータとマインドデータを組み合わせていけば、必ず労災を撲滅することができると考えています。テクノロジーで労災を撲滅する、こうした信念でこれからも取り組んでいきます。(完)
a