シリーズ○○を考える01 「顧客価値を創造するものづくり」を考える

顧客価値とは何か

顧客価値」とは企業が顧客に対し提供する製品(サービスを含む)に対し、顧客が認める価値のことを指します。我々の企業が置かれている環境は、いうまでもなく市場主義経済です。したがって、仮に顧客が認めた価値よりも価格が高ければ顧客は購入に至りませんし、それより価格が安ければ企業は得べかりし利益を失ってしまうことになります。一方、その価格がもはや企業を満足させるものでなくなれば、企業は製品を販売しなくなったり市場から撤退したりしますし、そのような製品に替わる商品を提供出来ない企業は淘汰され、やがて姿を消します。つまり市場経済を通じ(アダムスミス流に言えば神の見えざる手によって)顧客価値は実現されているとも言えるのです。にもかかわらず「顧客価値の重視」が叫ばれる背景にはどんな理由があるのでしょう?

顧客価値の重視が叫ばれる2つの大きな理由

「顧客価値の重視」が叫ばれる背景には、大きく2つの理由があります。
一つ目は 価値創造のプロセスは、組織の肥大化等によって顧客価値の創造という本来の目的から乖離しやすいということです。特に、研究開発から製造・販売・アフターサービスへと、必然的に価値創造のプロセスが長くなる製造業において顕著となりがちです。

二つ目は、製造業のサービス化の進展です。顧客が製品等を購入する理由は、いうまでもなくその製品から受ける便益(サービス)に価値を見いだすからです。
これに気付いている多くの企業は、例えば顧客の変化を敏感に感じ取り三井越後屋が「現金掛け値なし」「反物の切り売り」「店先売り」を始めた様に、古くから顧客価値を最大化するための工夫を行ってきました。その意味で「顧客価値の重視」は言葉として表に現れずとも、多くの企業にとって共通の認識だったと言えるでしょう。

それが近年改めて叫ばれる様になった背景には、製造業のサービス化の進展があります。特に顧客に提供するサービスがIT技術を応用したものとなっていく今日、有形物の提供を中心とした従来のものづくりに比べてビジネスモデルの自由度が増す分、顧客価値の創造に対し意識的である必要が高まってきたのです。
当初苦戦していたiPodが専用ソフトiTunesのウインドウズ対応をはじめとする改良によって商品力を高める事に成功し市場を席巻したことは記憶に新しいところです。また、ベンダーとユーザーの関係が親密かつ長期にわたるBtoBビジネスでは、ベンダーから提供されるサービスの優劣がユーザーのビジネスの成否・優劣に関わる場合も多いので、その分サービス化への対応如何がBtoCの場合以上に、ベンダーにとってもビジネス成功の鍵となることは容易に想像がつきます。顧客価値を創造するものづくりを進めるには、顧客価値分析などを通じたサービス化の進展への対応が、今後ますます求められることになるでしょう。

顧客価値を創造するものづくりの先端企業例:小松製作所

製造業のサービス化に早くから気づき、いち早く対応を行ってきたのが日本を代表する製造企業の一つである小松製作所です。同社は自動車メーカーに先駆け、1950年代頃から輸出や工場建設を行うなど元来進取の気性を持つ企業ですが、今ではさらに建設機械の位置や稼働状況をデータを集約し、車両の保守管理や省エネ対策などを可能になるKOMTRAX、施工の3次元データや建設機械の情報を集約、様々な施工最適化システムを利用できるようになるクラウドサービスLANDLOG、さらに機械単体の情報とライン、工場規模の情報を集約し、不具合の原因特定や加工手順の改善に寄与するKOM-MICSの導入など、顧客価値を創造するものづくりの先進企業としても知られています。製造業のサービス化といえば、どうしてもいわゆるIT企業が想起されやすいところですが、歴史ある製造企業である同社によるこのような取り組みは、顧客価値を創造するものづくりを目指すわが国の多くの企業にとって、大変参考になるものといえるでしょう。(CP)

2019年度の「会員交流フォーラム」では、小松製作所の粟津工場を見学する予定です。
ご関心のある方は、是非参加をご検討願えれば幸いです。