気になるビジネスデータ03:潮目を迎えつつあるASEAN事業 今後は一層、水平的・互恵的なビジネス姿勢が求められる

グローバル化の進展に伴って、ASEAN諸国はアジアNIESや中国を補完する地域として脚光をあびるようになった。中国で激しい反日暴動が起き、日本人駐在員数がピークを迎えた2012年から2017年まで間にASEANの日本人駐在員は32%増の8万3千人となり、16%減の7万人となった中国を逆転した。その結果、北米(5万5千人)や欧州(3万人)を上回り、 海外で日本人が最も多く働く地域となったとの報道もある。クーデターや強権政治などの不安材料(カントリーリスク)はあるものの、米中経済摩擦の激化やBrexit(イギリスのEU離脱)にまつわるイギリスおよびEU全体に対する先行き不安等もあり、わが国企業のASEANシフトは今後ますます進展する可能性が高いものと思われる。

ASEAN諸国は、その多くがかつては西洋列強の植民地だったので、独立前は宗主国が必要とする資源の安価な供給基地や市場となることが求められ、宗主国視点の国家・地域経営が当たり前だった。そのため、代表的なインフラである鉄道の敷設なども、宗主国が必要とする資源・製品の産出地・生産地から積出港との間だけが積極的に行われるなど、各国の自律的発展への視点はないがしろされる場合も多かった。その結果、独立後も自立的な成長を図る上で必要となる様々なインフラは脆弱で。シンガポールのように地の利を生かし、例外的に早くから経済の離陸を開始してアジアNIESの一員となり、さらには他の先進国と肩を並べあるいは凌駕するまでになった例を除けば、先進国からの政府主導の技術・資金供与に依存する国家群というイメージが長くつきまとっていた。

また冷戦終結後に市場経済に移行した国々が含まれるなど国家間の格差も大きい。わが国企業のASEAN現地への進出についても、その多くがわが国の産業・企業の比較優位を背景とした、垂直的分業を目指すものが多かった事は否めない事実だ。しかし、ASEAN Investment Report 2018によれば、今やASEANへの投資(海外直接投資:FDI)を行う国・地域のトップはASEAN自身になったという。これは産業の高度化に伴い域内への再投資が活発化し、地域が自立的に成長を遂げる体制が出来つつあることを示す一例といえよう。1960年代後半から 70年代にかけて起こった反日運動への対応などを踏まえ、わが国企業の多くは現地の実情に添った投資・企業行動を心掛けてきた。その結果、全体としては各国に受け入れられ良好な関係を保ってきたといえるが、ASEAN諸国が力をつけ、域内の民間部門との競争も激化することが予想される中、 ASEAN諸国の現地企業との連携については、より一層水平的・互恵的な真のパートナーとしての姿勢が求められることに留意すべき局面に入ったと言えよう。(兆)
※ASEANと中国の日本人駐在員数逆転等の報道:日本経済新聞電子版(2018/11/4)