【Book Review05】「戦争が起きてもアニメ」と揶揄されたテレビ局は、いかにして話題の報道番組を次々制作する迄になったのか

テレビ東京と聞いて、皆さんはどんなイメージをお持ちになるでしょうか?

いまでは『ガイアの夜明け』『カンブリア宮殿』『未来世紀ジパング』さらには選挙報道の「池上無双」等々、話題の報道番組を次々に連発するテレビ東京ですが、かつては在京局ながら「戦争が起きてもアニメ」「番外地局」と揶揄される存在でした。そんなネガティブイメージが付きまとうことになった大きな原因の一つとして、在京キー局中最後発の放送局で系列局も少なかったことが挙げられます。わが国で民放テレビ局が開局して以来の長期間にわたって有効だった「マスを狙う」というビジネスモデルが成立しづらく、資金的にも人員的にも苦戦を強いられる環境にあったのです。
そんなテレビ東京が、系列局の少なさや全方位的・網羅的放送体制が取れないといった弱みを逆手にとり、ユニークなテレビ局になれたのはなぜでしょうか。本書は誰もが抱くそんな疑問に対し、前述の経済系3番組の全てに携わったプロデューサーが自らの体験を通じて答えてくれる一冊です。

著者は、厳しい経営環境に置かれていたテレビ東京のスタッフ達は、先発の巨大なライバル達に立ち向かうためどうしても常に頭をフル回転させて番組タイトルや企画の立て方、新鮮なキャスティング、さらには新聞の番組欄のコピーの一字一句に至る迄、工夫を凝らし続けなければならなかったといいます。しかし、そのような「逆境」だったからこそ、「他のやらない企画(コンセプト)こそ宝の山」「釜爺の法則で立ち向かう」「あえて〝苦手〟に手を出す」など、逆転のためのノウハウを数多く身につける事に繋がり、経済をはじめとする特定のテーマや視聴者層に強いという、広告主に対して高い訴求力を持つテレビ局へと転換を果たすことが出来たのだというのです。
実際、今でもテレビ東京の系列局は他のキー局と比べれば少ないものの、テレビ東京のネットワーク”TXN”のメディアデータ(エリア内TXN視聴世帯数)で、「放送エリアは拠点大都市を網羅しているため、全日本の69.6%をカバーする効率的な都市型ネットワークです。効率のよい媒体特性に加え、ターゲットを絞り込んだ多彩な番組編成によるピンポイントマーケティングやイベントとの連動、メディアミックスによる重層的なセールスプロモーションも可能です。」と謳うまでになっています。

本書で紹介されている、このような成功体験を生み出すために行った打ち手の数々は、イノベーションを起こす上でヒントとなるだけでなく、日々手強いライバルとの競争に晒されている私たちビジネスパーソンを大いに勇気づけてくれることでしょう。また本書では、池上彰氏や村上龍氏らテレビ東京の番組とは切っても切れないこれらの出演者に対し、著者がどのような素晴らしさや面白さを感じたかについても、制作の際のエピソードなどを交えながら紹介しています。それらを通じて彼らの人となりを知り、テレビ東京のユニークな報道番組作りの舞台裏を垣間見ることが出来ることも、本書を多くのビジネスパーソンにとって興味深いものとすることでしょう。(BP)
<書籍情報>
テレ東のつくり方 大久保直和 著 914円/ 日本経済新聞出版社