【Book Review04】溢れんばかりの情報を濾過し、世界を正しく認識するにはどうしたらよいのか

本書の表題ともなっているファクトフルネスとは データや事実にもとづき、世界を読み解く習慣のことです。ビジネス上の問題解決や課題達成を考える際はもちろん、合理性を求められる行動の全てにおいて、その起点となるのは「事実」と、それに対する認識です。我々の多くは事実に則して意思決定を行い、行動を行っているものと考えています。


本書において著者は「世界の1歳児で、なんらかの予防接種を受けている子供はどのくらいいる?」あるいは「いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいる?」といった世界の本的な事実にまつわる13問のクイズを用意し、例えば20%、50%、80%という3つの選択肢の中から正しい答えを選んで解答してもらうという実験の結果を紹介しています。それによると意外にも多くの場合、正答率は1/3つまりランダムに解答を選んだ場合より低く、しかも専門家や高学歴者、あるいは社会的な地位がある人ほど低くなる傾向にあるといいます。
著者はこの結果について、多くの人が人間の本能が引き起こす思い込みに囚われてしまい、知識もアップデートされていないことが原因だと指摘した上で、このような結果をもたらす本能を「世界は分断されているという思い込み(分断本能)」、「世界がどんどん悪くなっているという思い込み(ネガティブ本能)」「目の前の数字がいちばん重要(過大視本能)」といった10個に区分し、それぞれの思いこみ(本能)の内容を明らかにするとともに対処法を明らかにしています。

子供の勉強をみてやっている時など、自分が教わった時と比べて内容がずいぶんと違っていて愕然とした経験をお持ちのかたも多いことでしょう。有名な学習塾の名物講師がクイズ番組等で、昔学校で習った内容と今教えている内容が異なる点を出題し、誤答について解説するといった番組も、もはやテレビの1ジャンルと言えるほどに増加しています。これらは、 我々の認識の仕方には如何にバイアスが掛かり易く知識のアップデートもなされていないかを如実に物語る身近な一例で、いわゆる「フェイクニュース」が人々の心を捉える一因ともいえるでしょう。

しかし我々は、このような状況を悲観したり卑下したりする必要はありません。認識方法にバイアスが生じる原因の多くが、元を辿れば実は生物の進化を通じて我々の祖先が生命の知恵として獲得した、いわば人間という精密機器の性能特性とも言えるものだからです。その特性のおかげで、我々の祖先は激烈な生存競争を勝ち抜き、そのおかげで我々自身もいま人類として地球上に存在できているのです。つまり、我々は自分自身の性能特性を理解して必要があればチューニングを施し、ドッグイヤーとも言われるほど激しい時の流れによって変化していく知識については必要なアップデートを行って鮮度を保つ様に努力すれば良いのです。その方向性や方策を考える為、本書は好適の一冊といえるでしょう。(BP)

<書籍情報>
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ハンス・ロスリング他 著 1,944円/ 日経BP社