【Book Review03・5月開催第528回一隅会講師著書より】ありふれた地味な存在ながら実は人類存続の鍵-土を深掘りする

今や世界の人口は70億人を突破、21世紀中にはさらに30億人増えて、100億人に達するとみられています。しかしその食料を賄う土地はといえば、1人当たり14メートル×14メートルしか無く、しかもそれには今後砂漠化によって減少する可能性がある分も含まれているとのこと。農業には素人の私の目から見ても、ずいぶん狭いというのが率直な印象です。このような状況を打破する一つのアイデアとして、だれもが思いつくのは植物工場による食料生産です。しかし著者は、100億人分の食料を植物工場によって供給することはコスト面からみても現実的ではないとした上で、「100億人が、なによりも自分がお腹いっぱいに食べていくには、どうすればよいのか。100億人分の肥沃な土を見つけるしかない。」といいます。

土の色と言われ、われわれ日本人がイメージするのは「黒色」「こげ茶色~黄土色」「灰色」、せいぜい「赤色」くらい迄でしょう。しかし中国の黄土高原の子どもたちにとっての土の色は「黄色」、スウェーデンの子どもたちにとっては「白色」だそうです。土の色は黒色の腐植、白色の砂、黄色や赤色を示す粘土の含有量のバランスによって決まるので、色数が多彩だということは、それと同様に土の性質も多彩だということを示していると著者はいいます。その一方で、このように多様な性質を持ち、細かく見れば1つとして同じものはないといえる土も、 農業利用の観点から大きく分ければ12種類しか存在しないことや、 特定の「肥沃な土」というものは存在せず、肥沃さの元となる性質はそれぞれの中に散らばっているといった興味深い事実も、本書では紹介されています。

このような土の持つ特徴を踏まえ、本書では農業利用の観点による分類に沿って12種類の土の特徴を順に紹介しながら、土の肥沃さとは何かを明らかにしていくというアプローチを取っています。そして最終章では改めてわが国の土に立ち戻り、その長所・短所を明らかにしながら、なぜ日本に豊かな「里山」が成立したのか、今後それらをどのように守っていくべきかについて展望を示しています。

われわれ日本人は、世界的にみれば土に恵まれて、大部分の人々は普段あまり土に気を配らずに暮らしています。その様に土に気を配らずとも暮らせること自体が、日本の土が我々にもたらす恩恵の一つとも言えるでしょう。しかし、昨今は温暖化などの自然環境の変化により、否応なく土に向き合わなければならない場面が増えてきています。本書はそんな我々の進むべき道について、一歩立ち止まって考えるキッカケとなる一冊といえるでしょう。(BP)

<書籍情報>
土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて 藤井 一至 994円 /光文社

本書の著者である、藤井 一至氏には、第528回一隅会にご登壇いただきます。詳細・お申込みはこちらから!