【Book Review01】スタートアップが必ず直面する課題と解決策を、時系列に整理した「科学的な起業」の教科書

わが国では長い間、開業率が英米独の半分以下で、経済低迷の一因とも指摘されています。そのため、国・地方自治体等も創業機運の醸成を図っていますが、功を奏しているとは言えません。また、各企業も構造改革に向けた新事業開発を行おうと様々な取り組みを行っていますが、それらの取り組みが必ずしも狙い通りに成果が出ていない状況が、小会実施の経営課題調査の結果からも見えてきます。日米で複数の起業経験やベンチャー投資の経験もある著者が、自身の起業経験や投資経験における自らの失敗なども踏まえて著した本書は、起業家がカスタマーから熱烈に愛されるプロダクトを生み出し事業拡大できるようになるまでを分かりやすく説明しており、こうした状況を打破するための一助となる様に著した一冊です。

本書では起業プロセスを20のステップに分けるとともに、目的・狙い等によってそれらを第1章 IDEA VERIFICATION(アイデアの検証)、第2章 CUSTOMER PROBLEM FIT(課題の質を上げる)、第3章 PROBLEM SOLUTION FIT(ソリューションの検証)、第4章 PRODUCT MARKET FIT(人が欲しがるものを作る)、第5章 TRANSITION TO SCALE(スケールするための変革)の5つにまとめて説明しています。また個別のステップについても、多くのスライドと説明文とを有機的に結びつけながら読み進められる様に工夫されています。そのため、今読んでいるステップの理解が容易なだけではなく、そのステップが起業全体のフレームワークの中のどこに位置するかを、ステップ間の相互関係も踏まえながら理解するとともに、茫漠・混沌としたアイデアの沼の中から必要なものをすくい上げ、順を追って具体的なアクションに落とし込むことが出来ます。

著者はスタートアップの現状に対し、アマゾンやフェイスブックのような「大成功するスタートアップ」を作ることはアート(芸術)かもしれないが、「科学的な起業」の基本を身につければ、失敗しないスタートアップは高い確率で実現できるはず。しかし実際は成功のために有用な情報があっても様々な書籍やブログや動画などの中に散らばっていることで、忙しい起業家はそれらを活用することがむずかしくなっている、という問題意識を持っています。これを打破すべく、スタートアップに関する構造的かつ具体的な理解を助けるとともに、通読する際だけではなく机上に置いて辞書の様に「引く」用途にも使いやすいように工夫されている本書は、0から1を生み出す人材、いわゆる「0→1人材」の育成の必要性と難しさを痛感している、経営企画部門や人事・人材育成部門の方々を大いに勇気づけてくれる一冊と言えるでしょう。

<書籍情報>
「起業の科学 スタートアップサイエンス」 田所 雅之 著 2,484円/日経BP社